美天島聖剣伝説殺人事件01
その事件は、6月の終わりに1人の男性が探偵事務所のドアを叩いたことから始まった。
「『聖剣を穢す円竜の一族に滅びあれ。円竜勇朝が犯した重罪を悔い改めよ。さもなくば、花鞠の再来と共に美天島へ禍が降りかかる。円竜の一族に滅びあれ。堕ちた英雄の血族よ滅びあれ』……これは、脅迫状ですかね」
「はい。先日、美天島の村長である円竜勇朝氏の宛名で、円竜家の郵便受けの中に入っていました」
「しかし、妙な単語が多いですな。「聖剣」とか「花鞠」とか」
「それに関しましては、美天島の伝説をお話ししなければなりません。その昔、500年ほど前の戦国時代に美天島で実際に起きたことと言い伝えられています」
そう語るのは、事務所にやって来た鳥栖匠海(30)という男性だ。もらった名刺によると、美天島の商工会の役員をやっているらしい。
鳥栖が小五郎へと見せた脅迫状(コピー)は、彼が住む美天島の伝説に因んだものになっている。鳥栖の口から、まるで吟遊詩人のように伝説が語られた。
昔々、平和に暮らしていた美天島に1人の女が現れた。
笹を手にした女は花鞠の巫女と名乗り、夜明けと共に美天島に鬼の大軍が攻めてくると告げた。
島民たちは花鞠の言ったことを信じなかった。だが、1人の男が花鞠の言葉を信じ刀を手に待ち構えていると、本当に夜明けと共に鬼の大軍が美天島を攻めてきた。
男は奇襲をかけて最初に鬼の大将の首を獲った。大将を失った大軍は乱れ、慌て、あっという間に退治されたのだ。
男は英雄と祀られ、鬼の財宝を得てやがては島の王となった。
王となった男は死に間際、島の岩に鬼退治の刀を突き刺してこう告げた。
「島に更なる災いが訪れる時、この刀を引き抜く者が現れるだろう。刀を手にした者が次の王となり、鬼の財宝を手にするだろう」
王の亡き後、岩に突き刺さった刀を抜く者は現れることはなかった。
「……と、これが美天島に伝わる『聖剣伝説』です。島を代々治める円竜家は、島の王の末裔と言われています」
「どこかで聞いたような話ですな」
「それって、『アーサー王伝説』じゃない?」
「お前、いつのまに。ってか、アーサー王?」
「うん。アーサーって少年が誰も抜けなかった伝説の剣を抜いて、やがてブリテン島……今のイギリスの王様になって、仲間の円卓の騎士たちと数々の冒険をしたっていう話だよ」
小五郎の横にコナンが現れる。
岩に刺さって抜けない刀は『アーサー王伝説』に登場する選定の剣、王に相応しい者しか手にすることができないという聖剣・エクスカリバーを彷彿とさせた。
「よく似ているでしょう。その『アーサー王伝説』にあやかって、島では10年前から『美天島聖剣祭り』というものを開催しています。実際に聖剣を抜くことができた方には、賞金を進呈と謳って結構有名なんですよ。近年では、鬼の財宝の真相を確かめようとトレジャーハンターたちも集まってきていまして、島の観光に一役買っています」
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