杯戸町ショッピングモール死体転落事件01
「カッコ良かったんだぜ仮面ヤイバー!」
「初代の能力を受け継いだオリジンフォームが最高でした!」
「歩美、もう一回観たーい! 今度は蘭お姉さんと園子お姉さんも一緒に観ようよ」
「わたしは特撮に興味ないから遠慮しておくわ」
「そんなに面白そうならわたしも観てみようかな。コナン君はどうだった? 仮面ヤイバーの映画、面白かった」
「あ、うん。面白かったよ」
面白い部類には入ったが、子供たちのように無邪気な感想は抱けない。だって、中身は高校生なのだから。
江戸川コナン――またの名を、工藤新一。
黒ずくめの組織の取引現場を目撃したため、襲われて毒薬を飲まされて身体が縮んでしまった高校生探偵だ。
本日は、阿笠博士に連れられて少年探偵団の面々と杯戸町にあるショッピングモールにやってきていた。
お目当てはモール内の映画館で上映されている『劇場版仮面ヤイバー』である。もっと言うと、この映画館でもらえる入場者特典のオリジナルクリアファイルが目当てだった。
映画を楽しんでクリアファイルももらって、次にやってきたのはモールで有名なパンケーキ店。少しの行列に並んでいる最中に出会ったのは、蘭と園子だった。
彼女たちのお目当てもここのパンケーキ。それなら一緒に食べようと子供たちに誘われ、評判通りのパンケーキを堪能してから店を出たところだった。
モールの中心にやって来たところで、ピアノの音が聞こえて来た。
中心部の吹き抜けのホールには、白いタイルで造られたささやかな噴水があり、噴水の近くにはグランドピアノが設置されている。誰でも自由に弾いて楽しめるオープンピアノというものだ。中学生ぐらいの少女たちが興味本位に数個の鍵盤を叩いている。
少女たちがピアノから離れると、次にやって来たのは背の高い男だった。
調律を確認するように数個の鍵盤を叩くと、椅子を自身の高さに調整して腰を下ろし、手袋を外して両手を鍵盤に並べる。一瞬の沈黙の後、軽やかで優しい旋律が奏でられた。
「この曲……知ってる、『きらきら星』だ!」
「正確には、その曲の元になったモーツァルトの『きらきら星変奏曲』ね」
「作られた当初は当時流行していた恋の歌で、日本にはモーツァルトの死後にイギリスの詩人が作った星の歌詞が付けられて入って来たんだ」
「コナン君、よく知っているね」
「この間テレビで観たんだ」
「それにしても、随分と上手に弾くのう」
「それに……見て、蘭! 弾いている人、結構なイケメンじゃない!」
園子が色めき立って蘭に耳打ちをする。
上等なストライプのスーツを着たグレイブロンドの男性は、日本人ではないだろう。長い手足に彫りの深い顔立ち。スクエアの眼鏡の下の双眸は憂いを帯びた赤いハイライトが見える。
微睡むような視線で鍵盤を見つめ、一音一音は神経質なほど丁寧な星の瞬きに聞こえた。
いつの間にか他の通行人たちも足を止めて星の歌に聞き入っている。演奏者は人目も気にせず、一心不乱にピアノに向き合い最後の一音の余韻を残して楽譜を終えた。
星が降るように、拍手が降って来た。
「すごーい! お兄さん、ピアノ上手だね!」
「ピアニストなんですか?」
「次はよ、仮面ヤイバーの歌弾いてくれよ!」
「……仮面、ライダー?」
子供たちがピアノと男性へと駆け寄る。元太のリクエストに少し考え込んだ男性は、よく分らないと言いたげな声を出した。
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