ハーメルン
犯罪多重奇頁 米花
死者の食卓03

『立香君、感度はどうだい?』
「良好だよ」
『よし。もう一度、最新通信機の説明をしよう。こちらと君の音声はノンホールピアスに偽装した極小の最新通信機で拾うことができる。私が制作した魔術礼装だ、科学技術による盗聴もジャミングも心配しなくて大丈夫。これで、1人でボソボソ喋っていても独り言で済むのさ』
『こちらでも偲ぶ会の状況をオペレートします。先輩もお気をつけて』
「準備は良いか、立香」
「うん」

 ダ・ヴィンチちゃんの最新作の感度を確認してから車を降りた。
 都内郊外にある紺野邸にて本日、『那須野尊史を偲ぶ会』が開催される。立派な門の前で淑子を待ち合わせ、彼女の口利きで当日参加させてもらうことになっていた。

「主催者の紺野さんには、あなた方は私が雇った探偵であることを知らせています。特に反対はされませんでした」
「なら、紺野は犯人候補から外れるわね」
「いや、我らには解決できぬはずだと高を括っている可能性もある」
「まずは那須野を訪ねた3人に話を訊こう。参道ひとみは参加していないのですね」
「ええ、招待状を送ってはいないそうで……」
「お願いします! 中に入れてください」
「しかし、招待状をお持ちではない方は」
「……あれ」

 広い庭に設置された受付ブースで何やら揉めている。
 張り上げている声はまだ若い女性の声。真っ黒な喪服に身を包んだ彼女は、先日の写真で見た顔ではないか。
 那須野の婚約者である参道ひとみ。彼女が受付の人間に深く頭を下げている。
 だが、立香の目を引いたのは彼女の存在ではなくその後ろ。ひとみの後ろにはスーツの男性。その男性の隣には、以前知り合った少女と眼鏡の少年がいたのだ。

「君は、江戸川コナン君?」
「え……えーと、藤丸立香さん?」
「やっぱり、杯戸町のショッピングモールで会ったシャーロキアンのコナン君だね」

 特異点にやって来た初日の事件で出会った2人。江戸川コナンと毛利蘭が、ひとみと共に偲ぶ会にやって来ていたのだ。

「こんなところで偶然だね」
「そうだね」
「藤丸さん、どうしてここに?」
「仕事だよ。申し遅れました。『捜査解明機関カルデア探偵局』の局長、藤丸立香です」

 真新しい名刺を自信満々に蘭へと差し出す立香は、醸し出されている険悪な空気に気付かなかった。影の中のアンリマユにズボンの裾を引っ張られてようやく気付く……淑子とひとみの間に流れている、ギスギスした雰囲気に。

「参道さん、何故ここに?」
「尊史さんの死に納得できていなくて」
「だから、名探偵の毛利小五郎さんを連れて来たと言うのね」
「事故死な訳がないじゃないですか!」

 ひとみが偲ぶ会へ来ていたのは淑子と同じ理由だった。
 淑子が相談を躊躇った事務所の扉を臆することなく叩き、他殺の可能性を調査するために関係者へ話を訊きにやって来たのだ。招待状を持っていないのに、義姉と鉢合わせればこんなにも険悪な空気になると分っていて。

「名探偵の、毛利小五郎さん……ですか?」
「エヘン! そうです、私がかの有名な名探偵、毛利小五郎です。こちらの参道ひとみさんからのご依頼で、那須野尊史氏の死の真相を調査に参りました」

 淑子とひとみの間の空気を壊すように咳払いを一つしてから、蘭の隣にいた男性は金ぴかの名刺を立香に差し出した。この人は今、日本で一番有名な探偵――眠りの小五郎こと毛利小五郎。蘭の父親だ。

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