ハーメルン
ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE
『探しもの』とは何か
感覚をフィードバックする現verのGBNは、本物と遜色ない錯覚によって、夏の暑さも海の冷たさもダイバーに実感させることができる。
たとえクリスマスでも、常夏の島で海水浴を楽しむことができるだろう。
リアルに近付いていくバーチャルは、現実の季節という縛りすらも凌駕する。
しからば冬より夏が好きな人は、一年中GBNの海に入り浸るに違いない。
水着が好きな人も、異性のダイバーを海に誘うことが増えることだろう。
内陸地で海をあまり見たことがない国の人間も、海のエリアに頻繁に来ているらしい。
世界中の海を見たことがない人に海を提供することもまた、GBNの美点の一つだった。
そんな人々を、少し遠巻きにエヴィデンス01が眺めていた。
その横でモモが、バーチャル接着剤で砂の城を作っている。
「どうどう? 人間理解した?」
「そんな君、『攻略本読んだ?』みたいな……」
「人間ぶっちゃけそんなに理解するのに時間かからなくない? そんな難しい?」
「君、普段あんまり考えて生きてないのか……?」
「なぁんですって!?」
モモがエヴィデンス01の肩を掴んで豪快に揺らし、その最中にふと、何かを思い出した。
「あ、そうだ。ELダイバーってよく生まれるよねえ。エビちゃんでそろそろ100人行っちゃう?」
金色の瞳が、わずかに細まる。
彼はELダイバーではない。
だが、本当の素性を話せば社会の混乱は必至なため、『むやみに自分の素性を明かさない』と運営と約束もしている。
そのためELダイバーという仮の素性を使っており、彼の浮世離れした雰囲気から、周囲の人間は誰もエヴィデンス01がELダイバーではないのかとは疑わない。
エヴィデンス01はある程度ならば『地球人らしい嘘』を使うことができたが、量子偽装による真意の隠蔽を使えない会話において、言語上の欺瞞を用いることで文章上の真実を隠し、声のニュアンスで偽装の精度を高める地球人の嘘は、彼にはまだ大分難易度が高かった。
それは、人間が猿の嘘を真似するのが難しいのと同じことだった。
「で、あるかもしれないな。同胞の数は数えていない」
「はー、そっかー。
でもいいことだよね。
サラちゃんも仲間が増えたら寂しくないだろうって思うもん」
「GBNは膨大なデータの集積によって成り立っている。
そこからELダイバーは生まれる。
で、あるなら、GBNはELダイバーの飽和水溶液なんだろう」
「ELダイバーの飽和水溶液……???」
「飽和水溶液に塩を落とすとそのまま結晶が沈殿する。
GBNに新しいダイバーの思いが入ると、ELダイバーという結晶ができる……」
「わぁぁぁ! 理科の実験でやった覚えあって変なイメージが出てくるからやめてぇぇぇ!!」
モモが追いかけ、エヴィデンス01が逃げる。
海のそこかしこで恋人達が、家族達が、友人達がしていたじゃれ合いを、そこに宿る意味も理解しないままにエヴィデンス01は模倣している。
形から模倣し、後から中身を理解する。
数ある理解の手法の内から、今の彼はそれを選択していた。
モモは違和感も持っていなかった。
海で泳ぐ者がいて、砂の城を作る者が居て、海の中でガンダムが踊り、砂の中から十字架が飛び出して何人かが吹っ飛んでいく。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/6
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク