ハーメルン
魔女と聞いて弟子入りしたのですが、師匠の二つ名が『萌え袖』だった件について
魔女と聞いて弟子入りしたのですが、師匠の二つ名が『萌え袖』だった件について
森にひっそりとたたずむ魔女の家。
あの時のことは今でも忘れない。
森で迷子になったのを助けられた。
だけど――。
実は魔女だと、口を滑らされる。
そのせいで、魔女に会えたと興奮して即弟子入り志願という悲劇が発生した。
そして今にいたる。
「――ちょっとぉー! 弟子君ー! 私、ピーマン嫌いって言ってたよね!!」
せっかく朝ごはんを作ってやったっていうのに、ちょっと嫌いなものが入ってたってだけで、めいいっぱい頬を膨らませて怒る師匠に温厚な俺もキレそうになる。
「健康にいいんだから黙って食えよ。大きくなんねえぞ」
「何よ! 私の方が年上なんだからね!」
とか言って腹を立てる師匠の見た目は十二歳前後の少女である。
きっと、栄養を頭と身体以外のどこかへ持っていかれたのだろう。
「かわいそうに」
成長期は未来永劫に来ないのだろう。
先割れスプーンがお似合いだ。
「もうヤダ! 弟子君なんて嫌い! 破門よ破門!!」
というのが最近の口癖。
正直、めちゃめちゃ腹立つ。
何故かっていうと、何かを教わったことなんて、いくら思い返せども記憶の中に見当たらない。
「破門? だったら、まともに何か教えてから言ってくれますか? お・師・匠・様?」
「むぅー! 教えてるもん。いっぱい教えてるもん!」
「いっぱい教えたって、何をです? そのように言われるのであれば、この不肖な弟子に、何を教えたのかを教えてもらいたいですけどねぇ?」
ただただ世話をしてきた。
来る日も来る日も、同じように。
「俺がここに弟子入りして身に付けた技術は、炊事洗濯ばかりですが?」
「いいじゃん! 最高じゃん! お嫁さんになれるよ!」
「ふざけんな! この魔女魔女詐欺! 全世界の魔女に謝れ!」
「謝んないもん! 私もれっきとした魔女だもん! 萌え袖の魔女だもん!」
「大体何だその萌え袖の魔女って!」
「これ!! 見えないの!!??」
師匠はピーマンから逃げられたとばかりに椅子から飛び降り、ぴょんぴょん跳ねて腕を揺らす。
「何が萌え袖だ! 身体がちっちゃくてサイズ合ってないだけだろうが!」
「あーーーー!! 言っちゃいけないこと言ったーーーー!」
詰め寄ってきた師匠の萌え袖とかいう部分を、渾身の力で握りしめる。
「この間、遊びに来た魔女に俺は笑われたんだぞ!? 『あぁ、あの萌え袖の弟子なの』って、もう明らかに笑い堪えてたんだからな!」
「名誉じゃん! 私の弟子なんて、一人しかいないんだよ!? すっごい希少じゃん!」
「誰も成りたがらなかっただけじゃねえか! 俺だって知ってれば――」
「っうぅ。弟子君が酷いこと言う……」
あからさまな嘘泣き。
似たようなやり取りを何度した事か。
アホのクセに自分の使い方を知ってやがることが腹立つ。
「――前に弟子君が色目つかってた村の女の子に、あることないこと吹き込んでやる」
ほら。
「じゃあ俺は今度、ピーマンにピーマン詰めたものをピーマンで包んで、そのうえにピーマンぶっかけたものを食わせてやる」
「横暴だ!」
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