第11話、旅の度中に住む少女たち
清澄高校麻雀部はやっと雀卓を稼働出来る人数が揃った事によって本格的な活動を始めた。昨年の冬以来、日常的に4人で卓を囲む事が出来無かったけど今は掛け持ちの須賀京太郎を除いても打てるのだ。大きな一歩だとも言えるだろう。
だが、それはこの中の一人に取ってはただひたすら楽しいとも言えない状態だ。突っ走る者がいればそうには行かない者もいるのが麻雀だ。各自インターハイを含む大会の公式戦で実績を残した百戦錬磨の3人とブランクが6年に達する新入部員ひとりが座る。メンツが固定されていればその役割も固定してしまう。
「通らば……リーチです」
「それは無理だじぇ、ロン!」
「ひえっ」
四人だけでは牌譜の記録がままならないので毎回自分の手を記録して合わせる作業を行う局がほとんどだけど、ひとりがコテンパンにされたら牌を戻してその内容を再現して教える局も有る。そうして纏める記録を非公式監督である竹井久のメールに送たら清澄高校麻雀部日課が終わる。
「これで終わりました、今日もお疲れ様でした」
「おう、いつもご苦労」
「じゃ、早く帰ろうじぇ」
竹井監督にメールを送ってパソコンの電源を切った数絵はもう帰る準備を済ませた二人にしか返事が無いのに気づき部室を見渡した。そうすると窓際に座ったままうつらうつらと微睡み動かない美篶が目に入った。
手も足も出ない様に罠と引掛けで上原美篶を圧迫する打ち筋を貫く染谷まこと南浦数絵と、ひたすら止まらない攻撃で場を支配する片岡優希との対局で疲れたに違いない。
「上原さん、もう帰る時間です」
「は…はいっ、御苦労様でした」
「誰が見てもあんたが一番御苦労中さ」
「そうだじょ」
清澄高校麻雀部はまともに頭が回って無いような美篶を連れて下校する部活少年少女達の群れに合流した。賑やかで生き生きした風景の中に溶け込む様になった麻雀部も生きてるって感じに成った、ひとりだけを除いて。
校門を過ぎて足音がもっと多くなる頃、目線を下にして自分の足先だけを見ながら歩いていく美篶が口を開いた。
「……一さんも龍門渕高校で練習しているでしょうけど、天江衣と打って楽しいでしょうか?」
「それは本人にしか分からないが」
「私達と打つと天江衣を思い浮かべる程、辛いと言う事ですか?」
「ワシとあんたで散々イジメたじゃろ」
衣が麻雀に置いて発する恐さとは違うけれど、誰だって狙い撃ちされ続けたらめげる。まこの指示通りに場を支配する様な形で攻めてくる数絵に、美篶が異質的な物を感じたに違いない。気弱くて簡単に顔が青ざめた美篶は小声で話を続ける。
「インターハイ中継で見た天江さんの麻雀はありえない……存在でした」
「麻雀の事を避けてきたと言ってた割には麻雀の中継とか結構真面目に見てたらしいじぇ」
「い、いやそれは……2年前には一さんとテレビに出てましたから……」
優希のからかいに図星を刺されて、美篶のほっぺたが急に赤くなった。
「国広さんが上原を気にかけた分、あんたもまた国広さんを気にしていたんじゃったな」
「なんにせよ、県大会に出たら会える事になるでしょう」
「大会ですか……私にはまだ勇気が足りません、怖いです」
「私なら分けてあげてもいいじょ!」
優希は一気に飛び上がって美篶の背中に絡みついた。でも、もやしっ子の女子高生でしか無い美篶にひとりの体重は重すぎた故、中心を失って隣で歩いていた数絵に抱きつく事になった。でも数絵にも二人の重さを耐える余地など無く、ドミノの様に倒れる三人を見かけた学生たちの笑い声が耳に入ってくる。
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