第6話、麻雀でもう一度
上原美篶に麻雀はさぞ楽しい記憶だけで残ってない。6年前を今に思えばなんて事無いかもしれないが、小学校4年生には、そういう経験が有ったにも関わらずその場に居続ける理由も無かった。その時は自分が大人だと勘違いする頃だけど、逆にその時から何も変わらなかった今だから自分がどんなに子供っぽく小さな人間なのか実感している。
美篶はなんの答えも出来ないまま自分の教室から逃げてしまった。結構校舎から離れた所まで逃げたものの、息が激しくなり膝に手を当てて止まってしまう。体力も無いのに走り出して、緊張で心臓が爆発しそうだった。
「もう恐いのは……あれで十分だよ」
「何が恐いのか?」
「ひえっ!」
驚いた時の悲鳴すら小さすぎる内気な性格の持ち主だと、優希にもひと目で解る。ならばわざと親切に笑って見せる。
「別に襲う様な者はないじょ?」
「先輩が襲ったじゃないですか……」
「違うじょ、私は君を誘いに来ただけで別に強引に襲ったりしないじぇ!」
「なら、私は麻雀なんかやりたくないから帰って下さい」
「やっぱり麻雀はやれるけど、したくないんだな?隠す理由とか有るのか?」
「やれるけどやりませんって言ったらしつこく誘うからですよ」
「なら、何が恐いのか?」
美篶の表情が益々暗くなる。もう安直な嘘で逃れる状況じゃ無くなってる、全部バレたのなら逃げたって学校から逃げられるのでもない。美篶は自分より頭ひとつくらい下に目線がある優希を見下ろした。でも生まれ持ってる内気な性格が小柄の優希を自分より大きな存在に見えるよう変えてしまう。けどここでは引けない。優希に向かい初めて大声を出してみる。
「そんなの言いたく無いです、やる気ない人に押し付けないで下さい!」
とても弱々そうな声で怒ったフリをする美篶に優希は逆にふふっと笑って見せた。
「麻雀のやる気は無さそうだけど、困ってる人の助けならやる気だす優しい性格だと聞いてるじょ?」
「だ……だ誰がそんな話を」
「私は直接は聞いて無いから知らないじぇ、今日の放課後にうちらの部室でお話したいって部長が伝言たのんだ、一回でいいから」
・
旧校舎の最上階、人気の無い所に元学生議会長の秘密のアジトだった麻雀部がいた、友達の静ちゃんに聴いて置かなかったら新校舎のどこかで道に迷う事になって間違いない。
美篶は向こう側から牌がぶつかる合う音が聞こえてくるのに気づいて深呼吸をした。それから30秒ほどたってからやっと大きな扉を開く、と雀卓を囲んで座ってる先輩達が目に入った。
その中でメガネをかけた先輩が先に挨拶をする。美篶にも名前は知っていた、染谷先輩だ。
「やぁ、君が上原美篶か?麻雀部へようこそ、ワシが部長の染谷まこじゃ、よろしくな」
まこは早速、美篶を座らせてお茶を出しに行き、優希と数絵は一応待つことにした。でも静かさに耐えられなかった優希は当たり前の様に持ち備えている紙袋から1個を差し出した。
「タコス食うか?」
「い…いいえ、だ…大丈夫です」
「安心してください、本人が嫌なら誰も強制的にやらせません、どうにもせよ、雀卓に座り牌を打つのは本人しか出来ない事ですから無理やりやらせる事自体が不可能ですから」
数絵の固い敬語がむしろ緊張を増しえいるが本人には解る余地もないようだった。
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