ハーメルン
Sword Art Online -Project Salvation-
第一章 アウトサイダー -Outsider- 02

 人界暦三七二年七月二十一日

 夏になり北に位置するルーリッドの村でも日中はそれなりに暑くなってきた。ソルスの光を直接浴びればそれだけでも暑いが、僕には農夫という天職があるおかげで重労働も加わってくるから汗だくである。
 天職を与えられてからもう一年と少しが経ったから、流石に畑を耕す練習をしている訳ではないが、虫が付かないように見張ったり雑草を延びる前に除去したりとやることは沢山ある訳だ。これがリアルなら薬とかでやることはもう少し減るんだろうけど。

「おはよー」
「おはよう」

 いつもと変わらない時間に井戸で顔を洗っているユージオを見つけて挨拶をする。そして、いつもの様にユージオへ抱きつくと温かさを肌で感じる。改めて、ゲームの世界というか電子でできた世界でも生きているんだなというのが実感できる。

「夏でも夜は冷えるから、もう少しだけ」
「いいよ。そう言えば最近そわそわしてるけど何かあるの?」

 この辺りは夏でもお腹を出して寝ていたらお腹を壊すくらいには冷える。熱を貯めるコンクリートなんてないからね。そして、ユージオの質問に肩が跳ねる。
 七月だってのは思い出したんだ。だからいつの安息日なのか、毎回朝にユージオと顔を合わせて予定を聞いていた。もう安息日は二回過ぎた。となるともう二回の内どちらかで、恐らく今日ではないかとも予想を付けている。
 緊張した面持ちで今日どこかに行く予定はないか聞いてみる。

「うーん。実は果ての山脈に氷を取りに行こうってキリトとアリスが」
「えっ、禁忌目録で禁止されているんじゃ?」

 アリスが解釈を垂れて説得していること、それが実際間違っていないことを知りつつも白々しく聞いてみる。

「アリスが果ての山脈を越えてはならないだけで越えなければ大丈夫だって」
「そう、僕も行く。心配だから」
「僕としては嬉しいけどキリトが呼びたくないって」
「強引について行く。僕はユージオが心配だよ」

 キリトとの不仲がここにきて障害となってしまったがそれくらいなんのこと。どれだけ嫌と言われようがついて行くさ。
 ユージオが死んでしまう物語なんて必ず変えてみせる。固い決意を示すようにユージオへ抱きつく手を少し強めた。




 少々機嫌のいい僕と、僕が散々に今回の冒険を中止するように言ったことで不機嫌なキリト。そんな二人に挟まれてユージオは困惑したように左右を見てる。僕の右手とユージオの左手は繋がれていて、それが機嫌のいい理由だったりする。キリトは僕がここにいることに不満があるようだ。

「ふんふんふー」
「楽しそうだね」
「うん、楽しいよ」

 この日のために用意してきたリュックの中身に気を遣いながら、鼻歌を歌って歩く。緊張を誤魔化している面が大きいが、ユージオと手を繋いで歩けるなんて滅多にないから楽しいと言うのも嘘じゃない。
 人が通ることのない道は砂利やら草やらが無造作に配置されていて、踏み固められた街道とは違い歩くのに多少の体力を使う。それでも楽しさが上回っているのか、先頭を行くアリスは随分と軽やかだ。

「そう言えば、どうして氷を取りに行くの? というか氷なんてあるの?」

 何も聞かずについてきたことを今更ながらに気付き慌てて質問する。何も知らない筈なのに全部知っていると言うのは明らかに不自然だから聞いておかなければならないと思ったのだ。

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