ハーメルン
目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です
他人本命エクエーション 

「受けるがいいのデスっ!!『怠惰』なる権能!寵愛の証っ!!『見えざる手』!!」

 先手を切ったのは、ペテルギウスの方だった。自らの権能。恐らく10本ほどに及ぶ不可視の手を伸ばし、その膂力で以って僕を引き裂かんとしている……ようだが。

「なんかシュールだなその絵面!!」

 正直、怪しい祈祷か何かをしている狂信者にしか見えない。これは確かに初見じゃ何やられてるかわからないだろう。と言っても、致死の手が迫っていることは確か。緊張感に若干欠ける言葉を吐きながら、鬼化をしつつパンドラへと走る。

 だが、パンドラはペテルギウスの背後。そこへ走るということは、即ちペテルギウスの懐に潜り込むことに等しい。流石に無策で突っ込むには厳しいところがあった。

「ドーナ!」

 そこで、一旦停止して眼前に大きな土の壁を作る。無論、不可視の手はその程度の障壁を問答無用で破壊してくるが───

「そこっ!」

 それは、内側からも同じこと。逆に崩れないところには、不可視の手は存在しない。そこに向かって全力で飛び込んで、目の前の土の壁を破壊しつつも走る。

「嘘だぁ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ!!あり得ない、あってはならない……何故!あなた、あなたまさかっ!与えられし寵愛が!『見えざる手』が見えているのですか!?」

 ………現在進行形で蛇行しながらパンドラへと向かっているが、そう見えるのか。ということは今のところ僕は、『見えざる手』を順調に避けられているらしい。

「毎回思うんだけどさ、いちいち『見えざる手』って言うのやめなよ。『見えざる』に『手』なんか言われちゃ、そのまんますぎてタネも何もあったもんじゃないんだから」

「………わが寵愛の真価!とくと味わうがいい、デスっ!!」

 それはそれでわかりやすいな、と苦笑しながら、()()横に跳躍。コンマ数秒後、すぐ横の大地が抉れ、寸前に迫っていた破壊に軽く寒気を覚える。

 勘は勘でも、やはり鬼族の勘は馬鹿にならない。上姉様の戦闘センスも、この超感覚のようなものの超上位互換があってのものなのだろう。

 停滞は『見えざる手』の前では死を意味する。再びパンドラを中心に円を描くように、フェイクを入れながら疾走。たまに勘に従って前後左右へと回避を入れれば、『見えざる手』は十二分に避けられた。 

「我が愛!我が嘆き!我が詠嘆!!報いを受けるのデスッ!!我が愛を否定した報いをっ!!そして我が愛の前に!!勤勉なるワタシの奉仕の前に!その身を、命を、魂を、捧げるの──デス!!」

「要するに止まれってことでしょ?さっすが狂人支離滅裂。パンドラを含めてややこしい上に意味不明なんだよ!」

「そう!ワタシは狂っているのです!愛に!寵愛に!狂いながらも祈りを捧げる謙虚たる愛の使徒!」

「褒めたわけじゃ、ないんだよねっ!」

 全く会話になってない問いかけを続けながら、ふと、違和感を感じる。前々から抱いていたものがだんだんと大きくなり、ようやくその存在に気づけた感じだ。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析