第36話 父と母
「・・・・・・・・・ユイ?」
「まぁサングラスなんてかけちゃって。表情がわからないわよ、あなた」
ゲンドウの前には初号機に取り込まれたはずのユイが立っていた。彼女の姿は初号機に取り込まれる前の白衣を着たものだった。
「ここは・・・・・・初号機の中か?」
「そうよ。ねぇあなた、さっきここに変なプラグ入れたでしょ?」
「エヴァンゲリオンを無人で操るダミープラグだ。あれがあればパイロットはいらん」
不機嫌そうに窓の縁に寄りかかるユイ。ゲンドウはユイが遠回りに「シンジを無視するのか?」と言っている気がしてムッとする。
「ここから全てを見ていたわ。あなたがここで私に呼びかけていたのも。シンジが初号機で使徒を殲滅するのも」
ユイが初号機に取り込まれて11年。ゲンドウは結構な頻度で初号機のゲージに行き、中にいるユイに話しかけていた。ユイを失ってから一応別の女性と関係を持ったが、その女性はある事故で死亡。彼女が死んでからは、さらに別の女性と関係を持ったが、前ほど上手くはいっていない。
頭の中で話す日もあったが、たまに声に出して初号機に話しかけた日もあった。まさか聞かれていたとは夢にも思わなかっただろう。
「私がダミーシステムを拒絶したのはシンジを信じていたからよ。3号機のパイロットを絶対助けるという意思が私をそうさせた。まぁ息子を信じるのは親として当然よね」
チクチク刺すような言い方でユイはゲンドウに言う。
「それでね。お願いがあるの」
「願い?」
「あなたと冬月先生が進めているゼーレとは違う人類補完計画。あれ止めて欲しいの。もちろん本来の計画も」
その言葉にゲンドウは驚き、ガタンと席を立つ。彼らしくない行動だった。
「わ、私はお前に会うために・・・・・・」
「今話せてるじゃない。半年に1度くらいはこうして会うのもいいわよね」
「だがそもそも人類補完計画は――」
「ええ、計画の原案は私が考えた。でももういいの。完全な生命体なんて存在しない。初号機の中でその事を悟ったわ」
ユイの表情は清々しいものだった。ゼーレが進める人類補完計画。その恐ろしい計画の原案を考えた者がする表情ではない。
話を聞いているゲンドウは、ユイの言いたい事がなんとなくわかっていた。
死者は蘇らない。
過去には戻れない。
人は人間を辞められても神にはなれない。
だから過去に生きるのではなく未来に生きろ。
そう言っている気がした。
「ユイ・・・・・・」
「ね、お願い」
「だが契約はどうする?人類ではリリスやアダムスを止められんぞ」
「アダムスはともかく、リリスならなんとかなりそうじゃない?」
「・・・・・・レイか」
ゲンドウの頭の中にレイの姿が浮かぶ。
「そ。あの子は私の遺伝子を使った人工の身体にリリスの魂を居れたものでしょ?」
「よくわかったな」
「初号機の中にいればそれくらいわかるわ。あなた、レイちゃんにずいぶんとご執心なようね」
ギクリとするゲンドウ。
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