九話「理由」
「なる程、私の弟子になりたいのですか」
言葉が通じないのは不便だなと思いつつ、俺は勇者の言葉に頷いていた。俺としては魔物の暮らす主人公の故郷まで同行させて貰い、後はそこで安穏と暮らしていければよかったのだが。
(ついてゆく理由も説明できないし、現時点で意思疎通に難もあるし)
幾らか受け答えをしてジェスチャーをしても斬りかかられないだろうと思った段階で、俺はポップの方を示し、それから自分を示した。
「あの少年があなたについていっているのだから、わたしもついていきたい」
的な意味でのジェスチャーであり、まずは同行許可を得て、理由の部分はその後でごまかすなりどうにかしようと割と後のことは考えない主張だったわけだが、アバンはポップの様に自分の弟子になりたいと俺が望んでいると受け止めたらしい。
(あそこで違うって首を横に振ったら話がこじれるもんな)
弟子であれば同行は許される。それにあばれうしどり一匹に殺されかねないままの強さはさすがに心もとない。自衛できるだけの強さが身につくのは俺としても歓迎であったし、それよりなにより俺にアバンの勘違いをスルーさせたのは、とある可能性だ。
(ポップと同じ弟子と言うことは、待っているのは魔法使いとしての修行。だったら、本来覚えない、使えない筈の呪文を使えるようにしてもらえるかもしれない)
一番弱い攻撃呪文しか使えない俺としては、無視できるようなモノではない。現時点では精神力が足りず使える呪文は少ないだろうが、修行の結果で精神力が伸びるようなことがあれば、選択肢は増える。
(加えて俺にはドラクエの知識がある)
真っ新の状態で呪文を学んでゆくわけではなく、既に効果を知った状態からのスタートだ。座学なら少し下駄をはいた状態からすすめられる訳だし、普通に呪文を習うよりは覚えやすいのではなかろうか。
(余裕があれば他のナンバリング作品にのみ出てきた呪文の再現とか、夢は広がるよなぁ)
勘違いされても損はない、むしろ得ばかりだったのだから、俺が頷いたのは必然と言えた。
(って、自重しろ俺。強さを求めるのが目的じゃないだろ)
広がりすぎた夢が暴走するのを俺は必死に押さえつけようとし。
「って、先生本当にこのモンスターを弟子にする気っスか?」
(っ)
いかにも歓迎していない風のポップの声で我に返った。
(そう言えばそうだ)
俺は誤解された形だが、まだ希望を伝えただけ。ポッと出のモンスターが同じ立場として扱われると聞けばポップが不満を覚えるのは理解できるし、アバンも弟子として向かえ入れると言ってくれたわけではない。
(流石に無理があったか)
人間であれば、まだ違ったかもしれないが今の俺は二人との意思疎通も苦戦する状況であるし、魔物を連れ歩くのはデメリットがでかい。
(よくよく考えたら、村とか町とか入れなくなるもんなぁ)
一部のナンバリング作品では問題なく入れてたケースもあるが、あれはゲームとしてのご都合主義だろうし、確かこの世界では魔族も虐待対象になっていた気がする。
(甘かった)
これはもうNOしか返ってくる気がしなくて、俺はへにょりと崩れ落ち。
「いいでしょう」
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