「フシギダネって ふしぎだね?」 Part.4
「……フッシー……」
旅にでたい、とフシギダネはおもった。
お気に入りの丘はよくわからない機械でおおきな塔をつくるためにつぶされて、仲間たちはトキワのもりの奥深くに消えていき、塔をつくった人間たちや手伝いのポケモンたちも、気がつくとただのひとりもいなくなった。
いまは屋上でひなたぼっこをしても、一緒にあざやかな花粉を飛ばして景色を彩らせる仲間たちもいないし、いたずらしてくるコラッタやポッポもどこにもいない。
「……ダネ……」
ここが草原ならば根を張って老いていくのもよかったかもしれない。
1匹でのんびりと野原に座りこみ陽光に瞳を細める。
わるくない生き方だ。
けれど、
「フッシー」
だれもいないおおきな粘土のようなものでつくられた塔で、張れもしない根をのばすのは性にあわない。
〝はっぱカッター〟で暇をつぶそうにも、この塔のてっぺんに的あてで狙えるようなものはなければ、下までつるをつかって降りていくのもひと苦労。
かといって固まった粘土のようなものでじっとしているのも、すごく退屈する。
むかし、渡りのピジョットや風に運ばれてきたワタッコに、とおい土地の話を聞いたことがあった。
陽気がまぶしい常夏の島々、山頂から火を噴く山、想像もできないほどおおきな街。
いつか見てみたい。
この〝マサラのむら〟と森しかみえない塔の外へでて、旅をしてみたかった。
「ダネダネ」
けれどもフシギダネの生態に「たびをする」というものはない。
ポケモンの生息地がほとんど決まっているように、生息地をはなれて旅をする種族はすくなく、この場所から去っていったフシギバナたちも、このようによほどのことがなければ生息地をはなれることはなかっただろう。
一匹だけでは〝ひんし〟状態になればたすかる手だてはないから、そうなればトレーナーの手持ちになるくらいしか選択肢もないのだ。
「フシャー」
だけどもこんなところにまでくるトレーナーなんていないし、〝マサラのむら〟までおりていっても、エサをもらえるだけで捕まえてはくれなかった。
すこし前、といってもフシギバナの長老のいう「すこし前」だから、春を20回ほどさかのぼったころは、フシギダネはもっと旅にでやすかったらしい。
毎年フシギダネやフシギソウがこの丘にあつまってくると、どこからか不思議な白い服をきた老人がやってきて、今年からポケモントレーナーになるこどもの相棒にしたいと誘い、何匹かのフシギダネを説得してつれていったそうだ。
「ダネエ」
〝セキエイのやま〟で修行にはげむ仲間や、〝カロスのまてんろう〟で工事手伝いをやる仲間、〝ミアレのみやこ〟で花屋の用心棒をやる仲間。
1番道路出身のピジョットがいろんな仲間の近況をとどけてくれた。
丘の仲間たちで若いものたちはかれらのうわさ話ばかりを気にかけて、いつかは自分もと夢をふくらませたものだった。
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