9〜
何もかもを得て、その度に何もかもを失って。
そうやって彼が最後に望んだのが、もう何もいらないから、ずっと隣りにいてくれる人なのだろう。
それは、ありふれた存在のようであって、彼にとっては一番得難い存在であった。
『言ってしまえば、誰でも良かったんだ。一緒に歩んでくれる誰か。それが俺の幸せで、こんな最低で身勝手な願い、そりゃあ自力で気付けるはずもない』
幾度となく重なった死に戻りを通して、何度も何度も自分という人間を見つめさせられて、どうにも彼には自己否定的な側面が生まれてしまっていた。
自嘲して魔王に問いかける。
『軽蔑するか?』
しないさ。
よく分かるから。
『身勝手な願いだけどさ、魔王、お前にも幸せになってほしいよ』
そう願う人間を見て己の幸せについて考えないというのは、魔王には些か難しいことであった。
『それでさ、最後にこう言うんだ』
ざまあみろ、という副音声が聞こえてそうなくらい恨みをたっぷり込めて、男はニヤリと笑う。
『──愛してるぜ、世界』
時が経った。
あとしばらくもすれば、年も明け、また新たな一年が始まる。
私は一人で歩いている。
きっと、ずっと一人で歩いている。
でも、色々な人と笑って話をしよう。
色々な仕事をこの手でやってみよう。
キミが教えてくれた、畑の耕し方のように。
知らない人と知り合って、知らないことを知りにいこう。
キミが願った私の幸せを探しに行こう。
そうして、愛してるぜ世界、と言ってやろう。
恨みと感謝をたっぷり込めて。
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