6話
まさかの護衛対象者ご本人のお出ましに、オダは少し狼狽えていたが、当の本人はそんなことは気にしていなかった。
「オダさん。今回は本当に申し訳ございませんでした。私の護衛ということで、国境警備隊から宮廷魔導士団へと転属したと聞きました。私事にあなたを巻き込んで本当にごめんなさい」
そう言い、リディア=イグナイトは深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと。俺・・・いえ、私は気にしていませんから。頭をあげてください」
腰まで届きそうな鮮やかな真紅の髪と紫炎色の瞳。
そして物腰の柔らかそうな、優しげな雰囲気を纏い、端正なその顔立ち。
周りの人に聞くと大多数が美女、美人と答えるその女性こそが、オダが護衛する人物、リディア=イグナイトである。
無地のロングスカート、無地のカーディガンを羽織り、一見庶民の服装でも、それすらも彼女の美しさを引き立てていた。
そんな彼女がオダに頭を下げているのだ。
彼からしたらたまったものじゃなく、周りからの視線もとても痛く感じた。
「とりあえず駅の中に入りましょうか、リディア=イグナイトさん」
「はい。あとリディアでいいですよ。もうイグナイトを名乗ることはできないので」
そういうと彼女は少し悲しげに眼を伏せ、このように伝えた
「・・・わかりました。ではリディアさん。行きましょうか」
「はい、お願いします」
目的地である北西部の修道院までは列車で行くことになっている。
もちろん列車を降りてすぐ着くわけでもなく、その後は馬車か徒歩か選ばなければならないだろうが、どちらを選んでも時間はかかる場所だ。
今日は修道院の最寄り駅まで列車で行き、そこで1泊する。
乗降場で列車を待つ間、オダはリディアにこの予定を伝えた。
「はい、わかりました」
「・・・リディアさん。お願いですから乗降場から身体を乗り出さないでくれませんか?」
オダの予定を上の空で聞き、興味があるのは駅の中ですと言わんばかりのはしゃぎぶり。
貴族だからなのか駅をあまり利用しないからか、オダがそう思ったことを彼女に伝えると、
「もちろん利用しますよ、特務分室時代も使っていましたし。あとはしゃいでいませんよ」
彼女はこう反論したが、現在進行形ではしゃいでいる様子を見て納得がいくわけがないのだが・・・。
そう思っていると、列車が来たようで二人は予約していた席へと座った。
「では着くまで時間もあるようですし、少しお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「答えられる範囲であれば大丈夫ですよ」
電車が出発してしばらくたったあと、暇なのもあるがオダはリディアに質問をした。
「ではまず一つ。なぜ貴族でありながら1等席ではなく2等席なのですか?」
オダは帝都に行くまでの短い間ではあるが貴族社会について、レザリア方面へ異動する先輩から学び、その中でイグナイト家が貴族階級の上位に位置することを聞いていた。
だからなぜそのイグナイト家の後継者たるリディアの移動がこんなけち臭いのだろうかと、不思議に思っていた。
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