ハーメルン
貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士
第8話 親衛隊隊長ザビーネ

「ですので、どうか娼館に行くお金を歳費から出してください、ヴァリエール様」
「この猿どもめ。いや、猿に失礼だ。猿に謝罪しろ、このアホめが」

アンハルト王国、王宮。
ヴァリエール第二王女専用に与えられた居室にて、ヴァリエールは自らの親衛隊隊長を罵った。
そう、繰り返すが、相手は親衛隊――自らの近衛騎士を務める騎士たちの隊長であった。
その親衛隊長が、第二王女の歳費から、親衛隊全員が娼館に行く費用を出してもらう事を嘆願していた。

「これは必要経費なんです! ヴァリエール様、これは必要経費……避けては通れない歳費であります!!」
「どういう思考回路を用いたら必要経費として、貴女たちが娼館に行く費用を歳費として財務官僚に申請できる筋があるのか言ってみなさい、このチンパンジーどもめが!!」

ずっと、こうである。
10歳のみぎりに、親衛隊を母親から――リーゼンロッテ女王から与えられて以来、ヴァリエール第二王女はまるで生来のような胃痛持ちになった。
チンパンジー。
哺乳綱霊長目ヒト科チンパンジー属に分類される類人猿。
この場に第二王女相談役であるファウストが居たならばそう呟いたであろうが、残念ながらこの場にいなかった。
いや、男性騎士が近くに居たら、さすがにこんなふざけた嘆願は為されていないだろうが。
でも、やっぱり嘆願したかもしれない。
だってチンパンジーだものコイツ等。
ヴァリエール第二王女は、息を切らしながら、もうウンザリした様子で金切り声を挙げた。

「で、言ってみなさい、何か理由が言えるんでしょうね。ほら、言ってみなさい」
「第二王女殿下ヴァリエール様、訴えるのは大変誠に申し訳なきことながら、誠に非才な身を恥じ入るばかりではありますが――」

ヴァリエール第二王女親衛隊隊長、ザビーネ。
チンパンジーに果たして名前が必要なのか?
もういらないだろう、コイツ等には。
名を剥奪する権限は第二王女ごときには無いのか、ヴァリエールはそんな事を考えながらも。
ザビーネの発言の続きを黙って聞くことにした。
ザビーネは、何故かそのヴァリエールの発言をせかす様子を、嘆願が聞き入れてもらえるものと勘違いし、目をキラキラと輝かせながら叫んだ。

「第二王女親衛隊15名、全員がなんとこの度、処女であることが判明いたしました!」
「知るか!」

ヴァリエールは胃を痛めながら答えた。
知った事では無かった。
本当に知った事では無かった。
ああ、姉さまが羨ましい。
アナスタシア第一王女の親衛隊は同じく、武門の法衣貴族の次女や三女で構成されていたが。
決してこんなチンパンジー共の群れではない、むしろ家からその才能を、将来を嘱望されて親衛隊に入隊したエリート達であった。
姉さまが女王になった暁には、世襲騎士として新たな家を持つことすら許されるであろう。
第一王女親衛隊の隊員数は30である。
対して、第二王女親衛隊の隊員数は15。
数でも露骨に差別されていた。
いや、チンパンジーの数なんか増やしてもらいたくないけどさ。
何故、母上リーゼンロッテ女王はこんなチンパンジーの群れを私に。
そこまで私の事が疎ましいか。
ヴァリエールがそう考えるのは、無理のない事であった。

「もうすぐヴァリエール様の初陣なんですよ!?」

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