上杉編~③~
それから三ヶ月が経過した。
上杉家からの造反は家中・直江の判断で秘密裏に達成された。
「上杉家家臣が一人。謙信様の養子の一人で山浦景国と申します」
「儂が織田信長だ。そしてこいつが、織田家の渡人の、横溝 由貴じゃ」
「横溝だ。ま、よろしくな」
「なんと……」
「ん? どうかしたのか?」
「あ、いえいえ、上杉の渡人は、その……噂通りの悪鬼なので、一体どんな鬼なのかと心配でしたので……」
「酷い言い草だな。俺はそこまで鬼畜じゃないぞ」
山浦は春日山城の惨状を怒気を含めて話した。まず前提として、上杉謙信は他界したこと。今の謙信は2代目で、養女の銀姫様が行われていること。
「どういうことじゃ……あの謙信が他界して、今の謙信は女子と申すか」
「はい。その通りです。先代の遺言では、自分が死んだ後は後継者争いが行われることを想定した上での抜擢です」
「……俺の時代にも上杉謙信女性説があるが、いやはや、世も分からんもんだね」
「ごほん、話を続けましょう」
現在の上杉家は、先代の謙信様が一人では可哀想とのことで、家老直江兼続様は時を同じくして冥府のお供を仕っており、その後は娘である梅姫様が直江 愛を名乗り城を切り盛りしているらしい。
「その者も女子と申すか!」
「はい。銀姫様と梅姫様は子供の頃から縁が深く、二人揃えることで大きな支えになればとの兼続様の遺言でございました」
山浦は更に話を続ける。順調にいっていた上杉家だったが、渡人・櫻井隆が全てを覆してしまった、と。
銀姫様と梅姫様は毎晩櫻井の慰み者にされ、城の秩序もあったものではなくなった。もはや彼に同情するものはいない。今すぐにでも殺してしまいたいがそれもできない。
藁にも縋る思いで織田を訪ねてきたと山浦は言った。
「お願いします。櫻井を、あの男を殺してください。その為ならこの山浦、死んでも構いません。何卒、何卒……!」
「ふむ、そちよ、おまえは上杉の為に命を落とす覚悟はあるのだな?」
「無論です。同じく家臣の中にも同じ志を持つ者は多数います!」
「ふふふ、それなら手段は簡単だ。クク……」
「あ、信長、また悪巧みを考えてやがるな」
「うむ。だがトドメ役はそちよ。その覚悟はできているのであろうな?」
「ああ、いいぜ。ここまでお膳立てしてもらってやらなきゃ男じゃねえな。本当は怖いがな……」
「よし、山浦よ、そちは1度春日山城へ戻れ。そして何としてでも渡人を城から引きずり出すのだ」
「ははーっ! この山浦にお任せあれ!」
これで作戦は整った。
何も知らずに街道を『がとりんぐ』と共にのこのこと出てきた渡人に夜襲をかける。
合図と共に、火矢を放ち、馬車を繋ぐ縄は切る。時間を稼ぐために、付き添いの者は渡人に襲い掛かる。
そして全ての事が成しえた時、満を持して横溝が敵の懐に潜り込み、眉間に弾を撃ち込む。これしかない。
「以上が作戦だ。皆は準備しておけ」
「ははっ!」
「では私は1度春日山に帰ります。何としてでも奴を引きずりだしてご覧にいれましょう」
「うむ。期待しておるぞ」
「そういや横溝、先ほど本当は怖いと申したな……」
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