ハーメルン
SIREN2(サイレン2)/小説
第十二話 『不信』 一樹守 夜見島/瓜生ヶ森 0:39:51

 島の北東部にある夜見島遊園を目指す一樹守と岸田百合は、夜見島金鉱採掘所跡を抜け、再び森の中を歩いていた。遊園地内に囚われているという百合の母親を救うのが彼らの目的だが、一樹は、まったく別のことを考えていた。今、自分の周りで何が起こっているのか。死体がよみがえり襲ってくる、赤い津波、他人の視界を盗み見る特殊能力、無人の島に集う人々……この島に上陸してから、いや、この島に向かう船に乗ってから、常識では考えられないことばかりだ。百合は、屍人や幻視のことを、この島に古くから伝わる現象・特殊能力だと言った。だが、それを素直に受け入れていいのかは判らない。百合の言うことに合理性は無い。もっと、他に合理的な解釈ができるのではないだろうか。

「――守? どうかしたの?」

 いつの間にか先を歩く格好になっていた百合が、振り返って首を傾けていた。

「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」小走りで追いつく一樹。「いま、俺たちの周りで何が起こっているのか考えてたんだ。海から穢れが現れて、死体に憑りついて人を襲うとか、他人の視界を覗き見ることができるとか、いくらなんでも非現実的すぎる。他に、なにか現実的な説明ができると思うんだ」

 百合の顔に、あからさまな不快感が浮かんだ。「……あたしの言うことが信じられないの?」

「ああ、いや、そういうわけじゃないけど」一樹は両手を振って否定した。「この島に、古くからそういう伝承があるのは本当だと思う。でも、そういう古い伝承は、現代なら科学的に解明できることが多いんだよ。たとえば……そう、鉱山から有毒なガスが出ていて、集団催眠や幻覚を見ているような状態になるとか。こういう鉱山で栄えた村では、まれにあることなんだ。他にも――」

 百合が人差し指を立て、一樹の唇に押し当てた。「余計なことを考えてる時間は無いの。早くお母さんを助けないといけないから」

「…………」

 言葉を遮られた一樹に、百合は妖しげに微笑んで続けた。「お母さんは、『鳩』を飛ばし続けたの。何年も前から、何度も。でも、誰も戻ってこなかった。お母さんを助けることができるのは、あたしたちだけ」

 百合は一樹の唇から指を離すと、手を取った。「さあ、急ぎましょう」

 だが、一樹はその場から動かなかった。鳩を飛ばし続けた……伝書鳩を使って助けを求めたということだろうか? 囚われの身でありながら、伝書鳩を何羽も飛ばすことができるというのは考えにくい。どうも、少し前から百合の言うことは要領を得ない。嘘をついているとまでは思わないが、なにか、重要なことを隠そうとしているように思える。彼女の力になってあげたいという思いはある。しかし、隠し事をしている相手とは、信頼関係を築けない。

「そのお母さんの話も、よく判らないんだ。二十九年間誰も住んでいないこの島に、どうしてお母さんが囚われているの? そこをちゃんと説明してくれないと、とても信じられないよ」

 その途端、百合の顔が怒りに満ちた。投げ捨てるように一樹の手を離す。「酷い! やっぱりあなたも、あたしを信じてくれないのね!?」

「あ、いや、そうじゃないよ。でも――」

 一樹は手を伸ばすが、百合は拒絶するように離れた。「みんな同じだった。誰もあたしを信じてくれない。みんなあたしを否定する! 守だけはあたしの味方だと思ってたのに!!」

 不意に。

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