元勇者提督
「…なんなの、これ」
「これが現実だ、僕らがずっと遊び呆けてても、実際は毎日こんなことが起きてたんだよ、わかるだろう?海斗」
「…うん、わかる、だけど」
「内地はあんまりにも無関心だ、それは僕も、君も同じじゃないか」
「そうだね、わかった、やるよ」
彼は簡単に引き受けてくれた
小学校四年生の時、彼に出会った
本物の勇者に
「任せられる人が思いつかなかったんだ」
「…ボクでもこんな…きっとなんとかしてみせる」
一緒にサッカーをした事もあった、今となってはもう、諦めた夢もあった
「じゃあ、頼んだよ、僕は自分の鎮守府に戻るから…」
「うん、また会おう」
私が中学を卒業する前の集まりで、彼は自分を駄目な奴だと言った
勇者が己の存在を否定した
辛かったから、私は、彼に…
「…ねぇ、拓海、これはどう言う事なの?」
「……すまない」
彼の人当たりの良さは誰よりも素晴らしい点だった、努力家である事も周りから嫌われない重要な要素だった
だから、私はもう一度勇者になって欲しかった
「こんな、絶望の底に…なんで…」
「…違うんだ…僕は…」
この日初めて、彼に殴られた
「頼むから、もう、お願いだ、ボクはもう君をみたくないんだ」
「…すまない…本当にすまない…カイト…」
すがるような声をもらす
「君の考えてることはボクにはわからない、もしわかってても、応えることは…できない…ごめん…」
もう賢者には戻れない
「わかってたはず、なんだがな…」
「なんで古くからの友人にそんな役職を?」
「勇者だったからだ、私の中で、永遠に、いつまでもそうだった、仲間だったが、それ以上に憧れだったんだ」
「…気持ちはわかりません、ですが、きっとわかってくれるんじゃないんですか、勇者なら」
「元勇者だよ、彼だってただの人間なんだ、大人びた少年2人が、つまらない成人になっただけなんだよ」
「提督は、つまらないにしては戦果を上げすぎています」
「…そうかね」
「秘書官として、誇らしいほどに」
「そう言ってくれると幸いだ、大淀」
「…ですが、人の心は足りていませんね」
「まさか艦娘に人の心を教えられるとは思わなかったな」
「少なくとも、今日の任務内容を聞けば、足りないと思います」
「それが望まぬ仕事でもかね」
「…えぇ、でも、ちゃんと持っている事も知っています」
「人の心をか」
「船倉の資源を見れば、誰も薄情ものとは」
「きっと彼は受け取らない」
「…何故です」
「意地だろう、ここまで死んだ者のために、犬に成り下がらぬためにな」
「それをわかった上でこのような真似を?」
「…彼は勇者であり、憧れであると同時に、1人の友人なんだ、助けになりたいだけだ」
「前言撤回致します」
「人の心を持っていると言ったことをかい」
「わかっておられるくせに」
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