デミ・ゴッド
「えー、大体約三千数百回めの……正確な数字もわからないのに、この口上いるのかい?」
「ええねんええねん形式美や」
「ならいいけど……」
どこか頭痛を抑える仕草で、アルテミスが言う。何か漏れ出そうなものを堪えながら、しかしそれでも言葉にしないわけにはいかず、続けた。
「今回の司会進行役は私、アルテミスが仕切らせていただきます。よしなに」
「よしなにー!」
(悪)ノリのいい神が、同じように言葉を返す。
どう考えても真っ当とはほど遠いそれに、アルテミスは口元を引きつらせた。それでもなんとか、苦笑と言える程度にはとどめられたが。
そこは、バベルにあるとある一室。三ヶ月に一回開かれる神会と呼ばれる会合だ。
主に下界で起こった事件や問題を話し合う場として設けられているが、現在ではそれも有名無実化している。当たり前だが、千年という長いスパンで生きている神にとって、大抵の事は有事ではない。話し合われる事は概ねどうでもいい雑談や、益体のない事だ。こうなると、むしろ数千回も定期的に続いたことを褒めるべきかもしれない。
参加資格は、眷属にLv.2以上の者がいること。基本出席だが、それをご丁寧に守っている者もいない。その証拠に、円卓にそろえられている席の数は、明らかにLv.2以上を抱えているファミリアのそれより少なかった。
「えー、それでは……」
「今回のハイライトは間違いなくアイズ対オッタルの対戦っしょ!」
アルテミスが言葉を発しかけたが、途中で遮られ、沈黙を余儀なくされる。司会者が力を持ち、なおかつアクティブな性格でないと司会進行すらままならない。神会ではよくある光景だった。
さすがに、それを自分の時にされると多少ならずへこむが。隣の席に座っているヘファイストスが、慰めるように背中をさすってくれたのが、また切ない。
「やっぱアイズな! やっべーよ、大番狂わせ! まさかオラリオ最強に相打ちまで持ってくとは思わなかったぜ!」
「オッタルだって最強の名に恥じないくらい強かったのになあ。まさかまさかだよ」
「なんてったっけ? 宝剣だっけ? あれの詳細公開はよ! はよ!」
最後の言葉で、急に好き勝手な発言がぴたりと止まる。同時に、視線が一斉に、アルテミスに集まった。
彼女はおほん、と一つ咳払いをする。司会進行の役割を忘れたわけではないが、そこはそれ。ファミリアの話となれば別問題だ。
「黙秘します」
「何でだよォー!」
「神域金属の時は景気よく教えてくれたじゃないか! あのときのキップの良さをもう一度!」
「ア・ルテ・ミス! ア・ルテ・ミス!」
「いくら煽られたって教えないよ。そのためにわざわざ魔増、と、魔導力の製造方法まで教導したんだからね。トッドの言葉を借りて言うなら、その二つもまだろくに作れてないなら、そもそも鍛冶師としての練度が低すぎるのだよ」
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