ハーメルン
ダンジョンにすっごい研究者が現れた
オッタルの力

 オラリオ南方にあるフレイヤ・ファミリア本拠である地、戦いの野。
 ホームというのは主神の色が出る。例えば、ガネーシャ・ファミリアであれば陽気な雰囲気であったりだとか。とはいえ、人が増えればそういったものが薄れていくのも常だ。フレイヤ・ファミリアのホームも、例に漏れなかった。フレイヤの性質らしく荘厳な雰囲気こそあるが、やはり人が多い分だけ希釈される。
 その日は、特にそうだと言えた。ファミリア自体が、どこか浮き足立っている。主神であるフレイヤすら、どこか落ち着きなく、お茶請けのクッキーを口に含んでいた。
 フレイヤは今、私室ではなく、ホームの上階、見通しのいい部屋にいた。そこからホームを見下ろす。何が見える訳でもないが、ホーム内の変化くらいは分かるかもしれない、と思って陣取っていた。
 近くには、オッタルが控えている。ランクアップし、ほぼ上限いっぱいだったステイタスも改めて延びるようになった。そのため、最近はよくダンジョンに潜っていたが、この日だけは、彼もホームにいた。
 主神であるフレイヤがやや落ち着きないのと同様、彼もまた、表面には出さないものの、そわそわとしていた。

(いかんな……)

 入り口の前で、不動の姿勢を保ちながら、しかし彼は自戒した。

(フレイヤ様を差し置いて、俺が浮き足立つなど)

 短く思い、瞑目する。一瞬の事だったが、それだけで彼は意識を切り替えた。といっても、それも長くは続かず、やはりまた心が浮つき始めてしまったが。
 彼は自分のこらえ性のなさに、ひっそり嘆息した。そして、自らを戒めるように念じる。

(いかんな。新しい武器が来る程度の事で、このような……)

 かぶりを振――ろうとして、それもまた自制する。
 みっともない。思わずにはいられない。これではまるで、新しいおもちゃを楽しみにしている子供と大差ないではないか。実際そうだと言われれば、まあ確かに否定はできない。だからこそ、表面上だけでも取り繕う。少なくとも、オッタルはそれが、自分に必要なことだと信じていた。
 逸る鼓動を鎮めようとして――わっと、ホームから声が響いた。
 反射的に、オッタルの耳がぴくりと動く。同じように、フレイヤがお茶菓子に伸びる手も、ぴたりと止まった。
 忙しない足音が、ホームに響く。普段であれば、注意の一つでもされる無作法だろう。だが、この日だけは、それを指摘する者はいなかった。勢いはそのまま、扉を開ける音に変じる。

「団長、フレイヤ様、届きました!」
「来たのね」
「…………」

 つぶやくフレイヤとは対照的に、オッタルは沈黙したまま首肯しただけだった。
 二人して、先行く団員に連れられる様にして、ホームの入り口へと向かっていく。団員の足は速く、二人をせかすようでもあった。とはいえ、オッタルも、人のことは言えない。普段よりかなり足早になっているのは自覚していた。よく見れば、フレイヤの足取りも、普段より軽い。
 二人が向かったのは、ホームの中でも一等上等な貴賓室だった。部屋自体はさほど大きくないが、ただ一室にかけた金銭は、ホームの中でも一、二を争う。普段は、ギルドや大ファミリアの公的な来賓を迎えるためのものだが。
 部屋につくと、ファミリアの団員が、山のようにそろっていた。さすがに中をのぞいたり、話を盗み聞きしようとするような不調法を行う者はいない。が、誰も彼もが、そわそわとしながらそこで待機していた。

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