ハーメルン
ダンジョンにすっごい研究者が現れた
アルテミスの苦難

 神の宴。
 文字通りに、神のための宴だ。主催がどこかは時によってまちまちだ。神会と違って、定期的な開催があるわけでもない。
 元来宴と遊び好きの神たちだ。(比較的)厳かな神会と違って、神の宴は本当にただの宴会である。参加者もまちまちで、臨席しない者も多い。同時に、特に意味もなくはせ参じる者も、同じくらい多い。
 そういった会場なので、参加を強制される者というのは極めて少ない。せいぜいが主催者くらいだろう。後は、

(私……みたいに、かな)

 基本的にはただの立食会にあって、しかしアルテミスは、居心地悪さを感じながら、カナッペをつついていた。
 今回の神の宴は、アルテミスのために開かれたと言っても過言ではない。誰も彼もが、彼女の眷属に興味津々だった。最新の面白いおもちゃを見つけた、と言ってもいい。それは、彼女も含めてだが。
 誰も彼もが、アルテミスに話す機会を伺っている。しかし、ある者は互いに牽制し合い、ある者は露骨に機会を狙うが邪魔され、近づけずにいる。結果、彼女は会場のやや隅の方で、ぽつんと一人で立っている羽目になっていた。

(何を考えているかは……分からないんでもないんだよな)

 結局の所、それが問題の焦点だとも言えた。
 トッド・ノート。希代の天才と言われているが、彼の出した成果は、それだけではとても収まらないものだった。
 つまり、皆はこう思っているのだ。多かれ少なかれ。彼に神の力を与えたのではないか――不正をしたのではないか。
 当然、アルテミスはそんなことはしていない。神に誓って(というのも馬鹿馬鹿しいか)。あるいはまあ、ギルドあたりに誓ってもいい。断じて言う。彼は神などの力を借りず、ただ自分の才覚と努力のみであそこまで上り詰めたのだ。

(それを誰もが疑う)

 結局の所、苛立ちの原因とはそれだった。だからこそ、壁の華というのは少々棘がある状態で収まっている。

(いっそヘスティアがいればなあ……)

 カナッペを口にくわえ、ついでに唇で上下にもてあそびながら、そんなことを思う。
 あの神友であれば、きっと自分の言葉を信じてくれるだろう。それも、心の底から。彼女は単純であり腹芸のできない神格であるが、それだけに信用ができる。

「やあ、アルテミス」

 と、急に声をかけられた。本当に予想外のタイミングであったため、思わず口の中の物を詰まらせそうになる。
 胸元を叩き、なんとか喉から押し込んで。声の方向を見ると、そこには一柱の神がいた。

「ヘルメス」
「久しぶりだね。美しき処女神」

 うさんくさいと言えばいいのか、とにかくそんな作り笑いで挨拶をしてくる。
 ヘルメスという神を一言で言い表すのは難しい。放浪癖があり、割とファミリアを空けている。ただの放逐であるならばいいのだが、そこで何をしているんだか、ろくでもない企みを企てていることも少なくないとか。そして、良くも悪くも空気を読まない。
 今回に関しては……まあ、アルテミスにとっては、いい意味で空気を読まなかったといった所か。まあ、わざわざ口の中に食べ物が入っている状態で声をかけてくる点に関してはどうかと思うが。
 アルテミスははしたなくならないよう、皿をテーブルに置いて、ヘルメスに向き直った。

「やあ、何だい?」
「宴を彩る華を眺めているのも悪くないと思ったのだけれけどね。さすがに心地を崩したまま飾っておくのも悪いと思って話しかけさせてもらったのさ」

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