ハーメルン
ダンジョンにすっごい研究者が現れた
依頼

 バベルの上層より地上を見下ろして、フレイヤは機嫌良く紅茶を飲んでいた。
 機嫌良く、というが、そもそもここ最近、機嫌の悪い神など、ほとんどいない。理由は単純明快で、神域金属(アダマント)という新合金が誕生したからだ。これにより、冒険者全体がレベルを一つあげて、ダンジョン探求がより一層面白くなった。
 今自分がいるこの場所が、世界の中心であるという実感がある。
 もとよりオラリオは、世界の中心ではあった。有数の魔石輸出都市であったし、その事実を無視できる者もいない。世界の中心であるという事実を奪おうと、攻め入ってくる国、もとい神などもいるのだが。オラリオの冒険者は文字通りレベルが二つも三つも違い、現状それらはただのイベント扱いにされている。
 が、今回のそれは、今までの物とはレベルが違う。
 天才の出現。それによる、人間の生活すらも変えかねない発明。それを渦中で見られるというのだから、面白くないはずがない。
 退屈は神の敵だ。では逆は? 当然神の好物である。それは、どれだけ気取ったところで、フレイヤも変わらない。少なくともその程度の事は、彼女とて自認しなければならなかった。

(できれば……)

 ぽつりと思う。
 下界は忙しない。今も、トッド・ノートという天才に追いつこうと、鍛冶師が汗水垂らして技術を伸ばしている。その他の人間も、少しでも質のいい魔導力(エピセス)の武器を手に入れようと、駆けずり回っている。そもそも鍛冶師ですら、良質な神域金属(アダマント)のインゴットを得る機会が少ないのだから、その難易度は推して知るべし。
 楽しいお祭りではある。が、まだ最盛期というには足りない。黎明期も序盤がいいところだ。大きく盛り上がるのは、あと五年か六年か、多分それくらいの月日が足りないだろう。

(もっと大きな騒ぎになってほしい所ね)

 いかにも神らしい、俗っぽい願いではある。これもまた自認した。
 結局の所、神は所詮神でしかないという事なのだろう。スタンスが多少違うだけで。

(あの子も、もう一つくらい騒ぎを起こしてくれないかしら)

 あの子、とはトッドの事だが。
 もとより、今現在オラリオの中で大騒ぎを起こせる自力を持っている者とは限られている。まずはじめにトッド・ノートという個人。次に、彼の研究に協力していたという事で、強いつながりを持つアイズ・ヴァレンシュタインとレフィーヤ・ウィリディス。および彼女らを擁するロキ・ファミリアだろうか。

(注目が一点に集まってしまうことの難点よね、これって)

 いつの間にか空になっていたカップの縁をなでながら、思う。
 一度大きな騒ぎが起これば、それらはしばらく持続する。しかし、視点が定まってしまうと言う欠点もあった。他に騒ぎがあっても、元の大きなそれに押しつぶされて、小火で終わってしまう。こうなってしまうと、大炎を望むのならば、もう一度トッドになんとかしてもらうしかない。
 これで魂が好みだったら、彼に試練を与えるなり、もっと端的に引き抜きに走るなりしたのだろうが。あいにくと魂そのものは、好ましくはあるが、引き込むほどではない。どちらかと言えば、放置して眺めていた方がいい音を奏でる、とでも表現すればいいか。

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