1−3
長い洞窟を抜けると雪国であった。
洞窟に入る前も雪国だったので特に感慨はない。
雪を踏むと、ぎゅっぎゅっとなにかの鳴き声のような音を立てる。足がすねの辺りまで埋まった。
埋まった足の下も雪で地面ではなさそうだ。今降っているものが層になっているのだろう。
洞窟を出てからかなり歩いたが、目的地には着いていない。
天候は悪化し吹雪始めていた。あまりのんびりはしていられない。
「朝通った道はな、ダナフェンって聖人が旅で通った場所なんだよ。あちこちの地名になってる聖人なんだ」
「ふうん……知らねえな。有名なのか」
「まぁね。うそかまことか、邪眼の魔物相手に、目隠しして倒したって話があってさ。それで、戦神”ハルオーネ”の信徒として模範的な勇敢さだっ、てなったんだ」
いつもどおり俺が少し先行している背後で、ココルとトールが呑気そうに話をしている。
だだっ広い雪原だが吹雪で視界が悪い。どこまで見通せているのか見当もつかない。
「”ハルオーネ”……十二神か。俺が住んでた山じゃあ、”オシュオン”を祀ってたな。山の神だ」
”十二神”はエオルゼアで広く知られる神々だ。
「イイね。ココの推しは星神”ニメーヤ”ちゃんだな。ニメーヤちゃんは、お兄ちゃんの”アルジク”とくっついて、日神”アーゼマ”ちゃんを生むんだけど。面白いのがさ、東方には”太陽神アジム”ってのがいるんだってアジムステップって聞いたことない? そっちは男の神様らしいけど……同じ太陽の神でアーゼマとアジム……なんか関係あると思わないっ?」
「……待て。早い。登場人物が多くて分からねえ。あと神様の話してんだよな? 呼び方が不敬すぎるだろ」
視界は最悪な上に、雪が音を吸って後ろのふざけた会話しか聞こえない。集中力はとっくに切れて、まっすぐ歩けているかどうかも不安だ。
俺は立ち止まって、後ろを振り向いた。
「アージマだかアーゼムだか知らねぇけど……ココル! この方角で合ってるのか?」
「この雪じゃお手上げだよ。でも合ってたら崖にあたるから、それで分かると思う!」
「崖があるなら言っとけ!! 落ちたらどうすんだ!!」
さらっと大事なことを言いやがる。殺す気か。
俺は自分たちが歩いてきた方に目をやった。
トールとココルに続いてジンがいる。その後ろに、4人分の足跡が真っ直ぐに続いているのが見えた。
だが、本当にまっすぐ進めているとは思わないほうが良さそうだ。太陽の位置が分からなくなってから、それなりの時間も経った。戻ろうにも足跡は消え始めてるだろう。
「……どの辺りまで来ていると思う?」
「順調にいってれば、着いててもおかしくないかな。崖さえ見つかればそれに沿って行けばいいんだけど……」
「進むしか無いか……ココル、かーくん出してくれ。先行させる」
「えー、落ちたらどうすんだよ。かわいそう」
「早くしろ」
ココルはぶつぶつ言いながらもカーバンクルを呼び出した。
カーバンクルはぼんやりと黄色く光りながら俺の足元を通り、ぴょんぴょんと跳ねながら進んでいく。
これでひと安心だ。
俺が後を追いかけようと歩みだそうとしたところで、カーバンクルがひゅっと姿を消した。
「かーくん!?」
「お、落ちた!? 崖か!?」
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