3−2
──見つけた!
山岳の頂上にそびえるイシュガルドは、限られた土地を活かすためか高低差の大きい都市だ。堅牢な城壁は深く入り組んでいて、下層にいくほど光が届かず陰鬱な印象だ。
標高が高いせいか、厚い雲は低く広がり、一層重苦しく冷たい空気を漂わせている。
豪奢な建物と美術的な彫刻の並び、香水の香りが広がる上層部と違い、この下層には壊れかけの小屋と破壊された石塁が散らかり、小便と吐瀉物の匂いが鼻を突いた。
だが気温が低いおかげで、その匂いは砂都ウルダハの路地裏よりはマシだ。
俺が駆けているのは修理の行きどといていない城壁の上、そしてその下にそいつらがいた。
路地裏の袋小路になった場所に、神殿騎士の格好をした何人かが並んでいる。ジャンヌと名乗ったでかい男の姿も見えた。
向かい合って小柄な人影がひとつ立っている。あれが異端者だろうか。
俺は冷たい石塀に手をかけて強く足を踏み込んだ。高さ。10メートルは無い。これぐらいなら、問題は無い。
「さあ追い詰めたわよ。ちょこまかと逃げ回って……観念しなさい」
「な、なんで! 違うって言っているのに──」
「その捕物! 待ったァッ!!」
俺は声を張り上げながら、城壁から飛び降りた。
神殿騎士たちとフードの女の中間に着地した。両者が驚いたように下がる。
「えっ……な、何?」
孤立した方の人影が声を上げた。女の声だ。フードを被っている。
……はて、どこか見覚えがあるような……。
とにかく立ち振舞いは、素人のものだ。そこまで危険な相手ではないようだが、一応背中を見せないように、2、3歩下がった。
「あら、貴方……ダメよ、今は。忙しいの」
剣の柄に手をかけていたジャンヌは、俺であることに気付いたようだ。
ジャンヌは白い息を突き、首を振った。クソッタレめ、変な言い方をするんじゃない。
ジャンヌが手を軽く上げると、背後でうろたえていた4,5人の神殿騎士たちが大人しくなった。
俺はジャンヌの7倍ぐらい白い息を撒き散らしながら、声を絞り出す。
「わ、ハァッ……ハァッぜぇ、ひぃ……っ! わひ……ちょ、ちょっと待て……ひぃ」
「…………見苦しいわねェ」
まったく腹の立つ野郎だ。俺は膝に手をついて、苛立ちと呼吸を抑えるのに集中する。
息を出し入れしていると、音を立ててジンが俺のそばに着地した。まっすぐ立っているが肩で息をしている。ココルとトールも、遠くの方の階段を降りてくるの見えた。
ようやく呼吸が整ってきた。最後にひとつ大きく長く息を吐き、吸う。
俺は握っていたソレの鎖持って、見せびらかすように掲げた。
「ほらッ…………わ、忘れもんだぜ」
ジャンヌが酒場に忘れていったソウルクリスタルが振り子のように揺れ、へき開面に沿って光をキラキラと反射した。
「…………ッ!? …………やってくれたわね」
「……何?」
ジャンヌが吐き捨てるように呟いた。俺は耳が良い。それでようやく聞き取れる声量だった。
ひどく迷惑そうな顔をしている。憎々しげな目だ。なぜそんな目をする。
ジャンヌがクリスタルに手を伸ばそうとしたのか、小さく手を持ち上げ、すぐに止めた。
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