始まりの記憶②
人を避けることは私には他愛もない事だった。視界に漂うエネルギーは誰もが少しは持っており、それを察知することで人と常に距離を空けて過ごせば良かった。とは言え建物の多い場所では人の数が多いため避け続けようとすれば忙しく、必然的にそもそも人がいない場所を縄張りとした。
小さい林や山、川の近くを行き来して過ごす日々、水は多少必要だが食事は最悪無くても体は問題なく動かすことが出来た。だが栄養が人体に必用な理屈は理解していたので、草木や虫を口に入れていた。味や匂いに嫌悪感を抱くことは無く、必要だから行う。生きることは目的達成の為に必要な過程でしかなく、それらも作業でしかなかった。
第一に多くの事を知りたいと言う知識欲、特にこのエネルギーについてもっと知ることが出来ればと言うのが私の主だった願いである。一番大きい願いはそれだが一番最初の願いは既に叶った。私は誰にも制限されない外へ出ることが出来た。今後の目標の為にもいつでも使える過ごしやすい場所を見つけるべきだろう。
万が一を考えると拠点となる場所は複数個所用意して置くべきだろう。一か所が使えなくなってももう一か所でなんとかできた方が良いだろう。周辺に人が寄らず、雨風や視線を遮れるだけの十分な遮蔽物、使われていない建物、もっと言えば管理されていない建物があれば丁度いい。
都合のいい建物を見つける力がある訳はなく、建物の老朽具合や人の出入りなどを確認して一ヶ月という時間を掛けて地道に調べた。潰れた会社の倉庫、工場、開発が止められている土地に残っている管理室と言う名の掘っ立て小屋、市や国が使っていた施設。後は住宅との距離、出入りする際や逃走時の経路、拠点候補同士の位置関係を踏まえて三か所に絞り込んだ。
中途半端に切り開かれて荒れている土地に佇んでいる小屋。使われず、表面がさび付いている倉庫。そして川の上に建てられている調査施設。既に捨てられたも同然の建物ばかりで人の出入りはここ一ヶ月は一回も無かった。とは言え警戒して出入りしておくべきだろう。
子供の小ささと幼い体に似合わない身体能力が合わせれば二階ぐらいの高さにある窓にも余裕で届いた。掴まる場所があればそこを基点に更に上に上がり、調べることも出来る。建物の一階は施錠されているが一か所か二か所は空いて居る場所が建物全体を見ればあるものだ。
最悪の場合は人が付近にいないので窓ガラスを割ったり、脆くなっているであろう壁や天井を外すか壊すかすることも考えていたが必要が無い方が良い事に変わりない。明かりがつくかどうかは念のため確認したが明かりを点ければ否応なしに気付かれてしまうので夜は暗闇の中で過ごす事になる。
家を飛び出た夜を思い出す暗闇は私は気に入っており、日の当たる昼間より夜の方が落ち着くくらいなのでそこは問題が無かった。それに加えてエネルギーを捉える目はそれだけで特別で暗闇の中でも行動が可能であり、エネルギーを目に集中すれば昼間と同じ、いやそれ以上に見ることが出来る。それを処理するには頭にもエネルギーを割く必要がある。
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