第11話 ルソーの血塗られた手
ノアたち一行がゲオルギウスとともにヴラド三世の襲撃を防いだあと。
砦内の避難民たちとジークフリート、モーツァルト、ゲオルギウスは砦を出立し、ジルが守る街へ移動させた。戦力を集中させ、聖人二人の洗礼詠唱によって、ジークフリートとマルタの解呪を行う狙いである。
ノアとペレアスはと言うと、さらに西にあるボルドーの街へ向かっていた。
ボルドーから逃れてきた人々は、フランス革命には付き合っていられないと述べていた。この百年戦争の時代には、フランス革命が推し進めた市民社会という概念すらないだろう。
明らかな歪み。もし竜の魔女を打倒したとしても、この時代にフランス革命が起これば人類史には多大な影響を及ぼす。
そんなわけで、ノアとペレアスはボルドーの街に潜入したのだが。
「おいペレアス。このワイン持って帰ったら585年モノってことになるんじゃねえか。売ったら億越えるぞ」
「マジか、山ほど買ってくる」
「『……キミたち、この時代のお金持ってたっけ?』」
「ああ、それならジークフリートのやつに……」
そう言いながら、ペレアスはごそごそと懐をまさぐる。彼は小さな袋を取り出し、中を開いてみせた。
袋の中にはまばゆいばかりの黄金が詰め込まれている。換金すればかなりの値打ちになるだろう。
しかし黄金を見た瞬間、ノアはそれを掴み取り、彼方に放り投げる。薄暗がりの空に、黄金は星となって消えた。
しばし唖然としたペレアスは、頭を抱えて叫ぶ。
「ああああああ!! 何やってんだ馬鹿野郎ォォォ!!!」
「それは俺のセリフだ! ジークフリートの黄金つったらラインの黄金じゃねえか! バリバリの呪物だろうが! というか何であんなもん渡してんだ!?」
「『あ、危なかった…ラインの黄金の呪いが振り撒かれるところだった……』」
ラインの黄金。ニーベルングの指環に登場する黄金であり、ジークフリートが邪竜ファヴニールを倒した際に手に入れた財宝とも言われている。
どちらにしろ多くの人間がラインの黄金を巡って争い、不幸を撒き散らした呪いの財宝。質の悪さで言えば両面宿儺の指にも引けを取らない。それを高々ワインのために使うなどという愚行が繰り広げられるところだった。
愚にもつかない言い合いをしていたものの、特に周囲から冷たい視線を向けられるといったことはない。
ボルドーでは無数の松明が灯され、人々は豪華に飾り立てていた。その様子はまるで何かの祭りのようだ。
街中で騒ぎが起きているおかげで、今更ノアたちを気にする者もない。竜の魔女の脅威に晒されているフランスで、その光景は異常だった。
いくら計画性のないノアとペレアスとはいえ、何の考えもなしにボルドーに来たわけではない。
マルタがこの街の近辺で謎の光を浴び、はぐれサーヴァントの状態に戻された時、共に行動していたという二体の英霊。シャルル・アンリ・サンソンとシュヴァリエ・デオン──彼らの捜索を目下の課題としていた。
「『マルタさんとコミュニケーションが取れたということは、彼らも同じ光を受けているはずだ。生きていればボクたちの味方になってくれるかもしれない』」
「オレにはよく分からねえが、カルデアには便利な機械があるんだろ? ちょちょいと割り出せたりしねえのか」
「『ここ一帯にノイズが掛かっていて、レーダーがよく効かないんだ。何かの力場がその街を覆っているような感じで……』」
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