幕間:いつか、煉獄の海にて
轟音が鳴り響く。
永劫と思える時の果てに、全てに終わりを告げる晩鐘が鳴る。
それが具体的にはなにを意味するのか、私にはわからない。
この夢において、私はあくまで傍観者に過ぎず、ただこの光景を眺めている『誰か』の中で、事の成り行きを見守る事しか出来ない。
それでも、この音は、この夢の主にとってのなにかが終わり、また同時に、それとは別のなにかが始まったと否応なしに感じさせられるものだと思った。
『誰か』の視線が動く。
膝をつき、今までずっと血のように赤黒い水で満たされていた砂浜から、自分の体を支える、奇妙な面を被った小さな人間らしき生物達に視線を向け、どちらからとも言わずに頷く。
『終わったンバッ!』
『勝ったッチャッ!』
不思議な語尾で達成感に満ち溢れる声を上げる彼らだが、しかし『私』の気持ちは晴れない。
達成感はある。これまで成し遂げたもののなによりも勝るこの達成感は、本来ならば心地良いものだろう。
―――だというのに、どうして胸が締め付けられる痛みを感じるのだろう。
再び、『私』の視線が動く。
暗雲が晴れていき、元の色を取り戻していく空。
雲の切れ目から伸びてきた光の柱が幾つも眼前の海に聳え立ち、それに浄化されるように赤黒い海もまた、蒼き海へとその姿を変えていく。
だが、その誰もが『私』の視界には入っていない。『私』の視線は、ただ眼前に広がる海の奥底へと向けられていた。
『……っ』
小さく、息を呑んだ。それは私であり、同時に『私』のものでもあって。
『私』は、ただ悲痛な声を漏らし、瞼を閉じた。
視界が完全に闇に閉ざされる刹那、私は見た。
ゆっくりと、スローモーションのようにゆったりとした動きでその姿を海の底へと消していくそれ。
所々に赤いラインの走った褐色の肌。ルビーのように煌めく、紅い瞳。
独り、静かに沈み逝く彼女は―――優し気な笑みを浮かべていた。
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おはよう、とサーヴァント達と朝の挨拶を交わしながら、私は廊下を歩く。
愛しの後輩であるマシュは、今ホームズやダ・ヴィンチちゃんと一緒に行動している。私はギリシャ異聞帯を攻略してしばらく経ったので、休息もそこそこに訓練を始めていた。
ギリシャの神々が支配する世界を乗り越えても、時間は待ってくれない。まだ私達が切除すべき異聞帯は三つ残っており、その内の一つはギリシャ異聞帯を呑み込んでより巨大化したシュレイド異聞帯だ。
急いては事を仕損じる、という諺があるように、無理して挑んでも返り討ちになるのは目に見えていた。なので私達は適度な休息を取った後、充分にコンディションを整えてから、各々が取り掛かるべき仕事に取り組んでいる。
だからこそ、私もサーヴァントの強化や、自分一人でも可能な限り生存率を上げる為の訓練を行っていた。
だが、今日の午前は休みだ。久々にゆっくりと出来る時間が確保できたので、ナーサリーやジャックちゃんといった子どもサーヴァント達と遊ぶのもいいかと思っていたのだが、その予定は先延ばしにするしかないだろう。
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