ハーメルン
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
第四話
とんでもない力……かもしれないと分かれば人間現金なもので、早速試したくなってしまった。
金属バット、というのもなんだか寂しいので名付けてエクスカリバー、いや、カリバーを握りしめベットから飛び上がる。
迷宮ではボスなどから強力な武器が産出するが、その他にも自分の武器を使いこめば、その分強力になるという話を聞いたことがある。
カリバーは私の愛バットとして名前を轟かせてもらおう。
さあ、迷宮だ。いざ迷宮、今すぐ迷宮だ。
もうそれしか今は考えられない。
廊下を早足で抜け、階段を降り……
「あら? 貴女目覚めたのね?」
「……?」
突然見知らぬ女の人が話しかけてきた、新しい宗教加入かもしれない。
こういった手合いは慣れている、うちにも毎日のように来ては、知らないと追い払っていたから。
無視と放置、王道の一手だ。
「あ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! アンタ助けてあげたのあたしなのよ?」
「え……そうなんだ。ありがとう」
命の恩人だった。
深々と頭を下げ、しっかりと感謝の意を伝える。
お礼はしっかりしなさいと、兼崎先生に教わったのだ。
穂谷汀
(
ほたになぎさ
)
と名乗ったその人は、顔の美醜は良く分からないけど、凄いスタイルのいい人だった。
しかも一人でダンジョンなんて危ないと、一緒に潜らないかと、膝を曲げて顔を合わせ提案してくれた。
いい人そうだし、もろ手を挙げて喜ぶ……ことは出来ない。
思い出すのは、大西の歪んだ表情。
一週間とはいえ一緒に戦った仲間を、何の慈悲もなく切り捨てる人間。
ああ、だめだ。どうやら私は残念ながら、他人を心から信用するのが恐ろしくて恐ろしくてたまらないらしい。
いつ背中から斬られるのか、壁としてぞんざいに扱われてしまうのか、頭の中をぐるぐるしている。
「ごめん、自分一人でがんばる」
「そう……じゃ、じゃあ電話番号あげるわ! 何か困ったらここに電話してね!」
「電話持ってない……」
私の言葉を聞いて痛々しいものを見たような、何とも言えない顔になる穂谷さん。
暫しの無言が続き、土日にはここに来るから、何か困ったら話してねと言って彼女は去っていった。
いい人だ。
信じれない自分がちょっと情けない。
……んんっ、何とも言えない出会いだったが、それはともかくとしてダンジョンに行こう。
勿論今回はFランクの落葉ではなく、Gランクの花咲ダンジョンだ。
◇
草むらの影、透き通った見た目の蠢く粘液。スライムだ。
足音を消し、ゆっくりと近づいて……
「ほーむらーん」
スコンッ!
両手でカリバーを握り全身を使い、振り回す様にかちあげる。
見事スライムの中心を捉え、そのまま真っ二つに。ついでに軽く踏み潰してスライムは絶命した。
本日10匹目、さらに経験値四倍となっているので実質四十匹目のスライム。
当然経験値もたんまりと入り
「来た!」
脳内に響き渡る、無機質で電子的な音声。
これで通算四回目、漸く訪れたLV5のレベルアップ音だ。
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