長く素晴らしく透明な一日
「あのチルタリス、見るからに相当毒が回っておった。恐らく痺れて体が動かないのであろうな。先ほどチルットに使った毒消しでは気休めにしかならんだろう」
一度家に戻った一人と二匹は、チルタリス救出に向けて作戦を練っていた。言って聞かぬというのであれば、せめて最善を尽くすしかない、とニャン太郎は思ったまでである。
「しかし手が無いわけではない」
「どうするの?」
「まずは牡欒で体力を回復させる。その後に毒と痺れを回復させればいい。ラムなんかがあれば一番なんだがな」
人間が作った薬で回復させる手はあるが、宗太はきっと使い方を理解していない。であれば確実なのは果実を使った自然治癒に限る。牡欒であればすぐそばの畑から拝借すればいいだろう。しかし肝心要のラムをどうやって入手すればいいか考えなくてはならない。畑には牡欒しかないし、家の中を少し探したがラムは見当たらない。野生で自生している保証もなければ、そもそもラムが緑色の果実であることしか情報は無いのだ。そうなれば答えは自然と目標は集約する。
「買いにいこう」
宗太は思い立って鞄を探ったが、がま口財布にあったは僅か八十七円のみ。駄菓子を買うのが精一杯であり、口を閉ざす他ない。そこでニャン太郎が一言漏らす。
「ならば牡欒とラム、物々交換してもらえばよかろう。人の言葉を喋れぬわしらでは出来んが、宗太。お主には出来る。その代わりお主では手が届かぬ牡欒も、わしらなら届くだろう」
そういって、ニャン太郎はチルットを見る。チルットは「任せてください、私に出来ることならばなんでも手伝います」と胸を張った。
「人は人、ポケモンはポケモンでそれぞれ出来ることが異なるのだ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
当たり前のことだが、妙にその言葉が宗太の胸に深く響いた。そうして話していくうちに、おおまかな指針は定まった。まずは牡欒を手に入れチルットがチルタリスの下へ届ける。その間に宗太とニャン太郎はラムの実を入手して届ける。祖父母は外に出かけてもいいが、日が暮れる前には帰っておいでと言っている。太陽が地平線に交わるまでに、その全てを遂行しなければならない。するべきことは決まった。そうとなれば早速、なけなしの小遣いをポケットに詰め込んで一人と二匹は再び畑へ繰り出した。
昨日試した時と変わらず、宗太の背では牡欒の実に手が届かない。しかし昨日と違うのはその隣に頼れる仲間がいることだ。チルットは嘴で突つつくことで、牡欒の実を二つばかし地面にポトリと落とした。しかしそれを足で掴んでみようものにも中々飛び立つことが出来ない。飛べるようになったとはいえ、万全の状態でないチルットでは牡欒を運ぶのは難しい。なにせチルットの体重は牡欒の倍より多い程度しかないものだ。宗太がチルタリスの元まで運んでも良いが、そうすると時間がかかってしまう。
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