ハーメルン
吸血鬼世界のVtuber
18話 リジア・ナプリス1

 街の観光を終えてさあ自分の家を作ろうということになったが、私は道具をまったく持っていなかった。これまで見たマイクラフトの動画ではどれも当たり前のようにつるはしを持っているのだがあれはどこから調達しているのだろう。
 そのことをリジアに尋ねると、彼女は私を街の外まで誘って森の木を示した。

『木を長押ししてみて』

 促されるままやってみる。すると木のブロックにだんだんとヒビが入り素材へと変換される。動画でよく見た採掘の光景が素手でも可能だということを知りつつ、私は木々から木材を採取する。リジアはそばで一緒に採取してくれて、ヒュー子はずっと私たちの様子を眺めていた。
 たくさん入手した原木で家を組み立てるのかと思ったがどうも違うらしい。リジアは私の目の前で原木を材木に加工、そして作業台を作っていった。作業台があればスコップやつるはしを作れるようになるんだとか。

「これが……」

 そして、いままで画面の向こう側でしか見たことのなかったものが、私の手に握られることとなる。
 いくつもの配信で見た金やダイヤモンド製ではないものの、自作した木製のつるはしを私は装備している。
 自分の心が静かに高揚していくのを自覚した。これまでマイクラフトのことをリジアとヒュー子と一緒に遊ぶゲームとしか思っていなかったが、自分も他のVtuberのように様々なものを作れようになったことで暖かな意欲が私の深いところからにじみ出てくる。
 続けてスコップと斧を作って、いよいよ私は地面を掘ってみた。

「掘れる!」

『いっぱい掘ろう』

 自分の行動によって簡単に地形が変わる、そんな単純なことをこれほどまでに楽しめるとは思わなかった。これまで見たVtuberたちと同じ体験ができることに興奮したのかもしれないし、あるいは子供の頃に砂遊びで抱いた楽しさが蘇ったのかもしれない。気がつけば私はリジアと一緒に手当り次第掘り進めてしまっていた。いまや森だった場所は多くの木が伐採され巨大なアリの巣だらけという有様だ。
 ここまで穴掘りに夢中になったのは、同じ材料から同じ道具を作って同じ目線で遊んでくれる人がそばにいるからだろう。リジアは木製のものよりずっと優秀な道具をたくさん持ってるだろうに、わざわざ始めたばかりの私のレベルに合わせた上で楽しんでくれている。
 ヒュー子のほうは何をしてるんだと見てみれば、どうやら弓と剣でモンスターらしきものを倒していた。私が邪魔を受けないよう排除してくれてるのだとしたら嬉しい。
 それから私たちは思いのまま周囲を穴だらけにしたり、伐採した木からリンゴを得て空腹を鎮めたり、ヒュー子の見つけた羊を狩って羊毛を得るなどして遊んだ。どの素材に何の意味があるのかはわからなかったが、雑談しながら目につくものをすべて収集するのは楽しかった。
 そんなことをしているうち、気がつけばだいぶ空が明るくなってくる。
 だんだんとはっきり見えてくるアリの巣を感慨深く見ていると、突然画面が赤に明滅した。心臓の鼓動を強調したような効果音とともに体力が減っていき、まさか何かから攻撃されたのかと慌てたが周囲に下手人らしきものは見えない。

「え、なに!? なんでダメージ受けてるの!?」

『日光、日光受けてるよ!』

『つるぎちゃんはやく隠れて!』

 納得と疑問がふたりからもたらされる。そうだ、吸血鬼には日光が毒なのだ。だが日光から隠れるなんてどうすればいいのだろう。

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