事件の幕開け
「…引き裂いてやる…八つ裂きにしてやる…殺してやる…」
ロックハートの部屋で聞いた冷たい冷酷な声。石の壁に張り付いて神経を耳に集中する。心臓の鼓動が速く大きくなり、額には汗が滲みだす。友人の奇怪な、さりとて無視できない緊迫した顔にロンとハーマイオニーも顔を合わせた。ハリーは2人を無視して玄関ホールに駆けながら、声の主を探し求める。
「…殺してやる…殺す時が来た…」
「また聞こえた!こっちだ!」
「待てよハリー!」
「聞こえるだろう、声が!」
二階に上がりハロウィンパーティーを無視して三階を目指すハリーを、友人たちは必死に追いかけた。状況を語らないまま何かを探すハリー。あちこちに目線を配りながら廊下を駆け回る彼は、一足先に人気がない廊下についていた。
「ハリー、なんだてっていうんだよ、本当に、」
「そうよ、ロンの、いう、とおり」
息も絶え絶えの2人にハリーは震える手で指をさした。その先の壁に30センチほどの文字が描かれ、松明の鈍い光に照らされている。
『 秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気を付けよ 』
奇妙かつ不気味な言葉にも意識が向くが、ゆらゆらうごめく影が目に入る。ゆっくり距離を縮めると、唐突な水音が廊下に響く。思わずこけかけたハリーを支えると、よく見えた。
松明の腕木に猫がぶら下がっている。フィルチの飼い猫ミセス・ノリスは目をカッと開き、何かにおびえた表情で硬直していた。
「ハリー、戻ろう。」
「でも、このまま、」
「戻った方がいい、ハリー。」
しばらく動けなかった3人だが、ロンが小声で肩をつついてきた。猫をほおっておけないハリーを、ロンは急かすようにいう。ロンらしからぬ強い口調に3人はその場を立ち去ろうとするが、もう遅い。
パーティーが終わり部屋に戻ろうとする生徒たちの声で、廊下はたちまち喧騒に包まれたのだ。その先頭に立つ生徒が後方の生徒としゃべりながら猫を見た瞬間、驚きの声が上がった。その後すぐに沈黙が廊下を支配し、ただならぬ気配を察知した生徒が前に出ようとしても3人に近づく人はいない。
重苦しい雰囲気を唐突に打ち破る、騒がしい声が聞こえてきた。
「 継承者の敵よ気を付けろ! 次はお前たちの番だ、この穢れた血め!」
人混みの中から現れたのはドラコ・マルフォイだ。いつになく紅潮した頬とぎらついた目で、ピクリともしない猫を見て彼は笑った。
「何事だこれは… ああ、ノリス!ノリスじゃないか?!」
騒ぎを聞いたフィルチは、飼い猫の無残な姿に顔を覆ってしまう。その指の間からハリーを見定めると、金切り声を上げながらハリーに詰め寄ってきた。
「お前だ、お前だ、お前だ、お前だ! 私のノリスを、殺した、殺した、殺した!
お前が、ノリスを… 殺す殺してやるう、俺がお前を! 殺す!」
「殺す!!!」
ハリーに詰め寄ってきたフィルチはピタッと止まる。数人の先生とともにダンブルドア校長が駆け付けたのだ。3人をいったん下がらせてからゆっくり猫をおろす。彼はその長い指や杖で、ミセス・ノリスをくまなく観察していた。その背後でスネイプ先生が笑いをこらえたような奇妙な顔で立ち、ロックハートは舞台中かのように独白している。
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