ハーメルン
(習作)インフィニット・ストラトス ~一夏とみんなの未来~
短編
もう20年になるだろうか、世界を震撼させた「白騎士事件」。
あの日から、世界は狂った。
女性にしか反応しない世界最強の兵器「インフィニット・ストラトス」、通称「IS」(アイエス)の出現後、男女の社会的な立場が完全に一変、『女尊男卑』が当たり前になってしまった。
宇宙空間での活動を想定して開発された『マルチフォーム・スーツ』なのだが、現代科学を逸脱した圧倒的な性能が、軍事転用を引き起こした。今もなお『ISスポーツ』を隠れ蓑として、兵器開発は継続されている。幸い、いまだ世界大戦は起きることはなく、核兵器に代わる抑止力となっている。
亡国企業も今は無い。
天災の気まぐれも、たぶん落ち着いている。たぶん。
「って、教えるわけにもいかないよなぁ……」
白い息が視界に入った。
車の鍵を冷たく硬い手で弄ぶ。
早く帰れるといっても、この夕凪もそろそろ終わる。
少し調べれば、わかることである。それに、優秀なあの娘たちなら、ちゃんと理解して考えてくれる。だが、『IS学園教員』という肩書きが、俺の前に立ち塞がる。平和を謳う日本という国だから、なおさらだ。
激動の人生を思い返して、あれもこれもと語ってしまいたくなるものが、『ISの系譜』というものは慎重になるべきテーマだ。大っぴらに武力として扱われているのだと、明言を避けるようにしなければならない。
今は、本来の目的として、宇宙空間での活動にもちゃんと使われているしな。
『お前の出番は無いんだよ。』
優秀なお前はそう思うんだろうな。学園を幾度となく襲った悪意を、あいつ自らが前線に立って、主力となって解決してくれた。もちろん、俺も無人機と戦い、時には幹部を撤退に追い込んだ。まあ、その度に『遅い』って言われたけれど。
でもISは戦うための道具じゃない。
IS学園は戦う覚悟を身に着ける場所じゃない。
俺が学んだことを教えたくて、千冬姉と同じ教師の道を選んだ。
「こういうところが、千冬姉には甘いって言われるんだろうなぁ」
まあ、心底嬉しそうに言うのだが。
うっ、なんだか急に頭がズキズキしてきた。
「それに。」
『守るって、お前の言葉には中身がないんだよ!!』
あいつの言葉も、ちゃんと糧にしている。今思えば、承認欲求だとか、存在意義だとか、そういう漠然とした思いが無かったわけではない。それに、『織斑』だから、戦うことは本能的に嫌いではないらしい。でも、千冬姉に対する憧れは本物で、この力は誰かを護るために使おうって、今でも胸に刻んでいる。
「あっ! いちかせんせーだ!」
「えっ! ほんと!?」
慣れた黄色い声援には、ちゃんと笑顔を返す。
何かを護るために戦うことは、ないほうがいいに決まっている。
でも、今も俺は、剣を手放すことはない。
「織斑先生、だろ!」
「「はーい、おりむらせんせー!」」
確かにもう1人織斑先生がいて紛らわしいのはわかるけれど、親しき中にも礼儀あり、だろう。
それに、久しく出席簿で叩かれてはいないが、頭がズキズキと痛んでくる。
このIS学園で珍しい男性教師ということもあって、どうしても注目を集めてしまう。千冬姉は同姓でありながら、今も昔も注目を集める。俺も千冬姉も『織斑』ということが原因だろう。まあ、性格の良い彼女たちは、決して容姿だけで好感を持ってくれているだけではないと信じたい。
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