駄菓子学を教えるスネイプ先生
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――ガキ大将だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、駄菓子の大味な魅力と、衝撃的な価格を学ぶ。ここでは万引きのような馬鹿げたことはやらん。これでも菓子かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く食欲、ゆらゆらと立ち昇る妖怪煙、メーカーの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、糸引き飴を空っぽにし、目玉焼きをソースせんべいでサンドし、フエラムネのおまけにさえ興奮する方法である。――ただし、景品狙いでゲームになけなしの小遣いを注ぎこんで結局菓子を買えなかったウスノロたちより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。コンビニでポテチを買うのが当たり前の世代であるハリーたちにとってあまりにも馴染みのない話だった。ただ、ありもしない記憶が駄菓子屋という空間への郷愁をかきたてて、なんとなく切なさと粉っぽいオレンジジュースの味がこみ上げてくる。
「ポッター! うまい棒にカルパスを加えると何になるか?」
やたら大人買いが流行っている定番駄菓子におつまみとしても優秀ながらちょっと割高な気がする肉系駄菓子を組み合わせると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「チープだ」という顔をしていた。ハーマイオニーは懐古趣味なので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「昭和生まれなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。梅ジャムを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには梅ジャムが一体何なのか見当もつかない。ミルクせんべいに塗って食べるのが最高だという話は聞いたことがあるが、残念ながら生産終了してしまったのだ。シリウスがひどく嘆いていた。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前に買い食いしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいた時、ダドリーのおやつをくすねたこともあった。あまりにジャンクな味で息が詰まったのを覚えている。スネイプはヨーグルやさくら大根のような目立たない駄菓子を今の子どもが自分から買うとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、あんずボーとみつあんずの違いは何だね?」
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