またウィザーディング・ワールド学を教えるスネイプ先生
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――英雄だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、原作者の微妙なセンスと、厳密な設定を学ぶ。ここでは夢設定を振り回すような馬鹿げたことはやらん。これでも二次創作かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く翻訳への苛立ち、ゆらゆらと立ち昇るポッターモアの情報、魔法界を這い巡る物語の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名案を原稿にし、傑作を出版し、教会にさえ禁書指定をさせる方法である。――ただし、USJで杖のおもちゃを買った程度のことでマウントを取ろうとするウスノロたちより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。いくら負け惜しみを言おうとも杖のレプリカやローブはほしいし、まずいと耳にしていてもバタービールは飲んでみたい、それがファン心理なのだ。2021年には延期された魔法の歴史展が兵庫で開催される。関西のホテルが怪しい連中で満室になるのは確実だった。
「ポッター! 二次創作にゲーム版の設定を加えると何になるか?」
趣味と性癖の煮凝りにほとんどのファンが興味を持たないおまけを加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「未履修だ」という顔をしていた。ハーマイオニーはナードなので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「ネット情報を漁るだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。生きているポッタリアンを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはポッタリアンが一体何なのか見当もつかない。ポタクラという呼称すら死にかけているのだ。ファンタビを始めとする新規供給でオンリーイベントも再興しつつあるが、それでも全盛の時代には及ばない。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前に先人の知識を享受しようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。更新の途絶えた二次創作を読み漁っていた時、どこまでが公式かわからない出典不明の設定集を読みはした。スネイプは知識が正義だとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、独自設定と原作崩壊の違いは何だね?」
この質問でとうとうクソオタクのハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
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