MTG学を教えるスネイプ先生
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――プレインズウォーカーだ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、マジック:ザ・ギャザリングの魅力的な過去と、破滅的な現状を学ぶ。ここでは銀枠のような馬鹿げたことはやらん。これでもカードゲームかと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く暇もなく殺してくるコンボ、ゆらゆらと立ち昇る禁止改定、色の評議会の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、良カードをクソコンボにし、トップレアを容赦なく禁止し、プロプレイヤーにさえ匙を投げさせる方法である。――ただし、諸君らがエロメンコのゲーム性で満足するウスノロどもよりまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。MTGは現在も開発が続いている中で最古のトレーディングカードゲームだ。かつてはコミック版デュエルマスターズの主人公たちもプレイしていたゲームだというのに、もはや一般人には名前すら知られていない。
「ポッター! かまどに猫を加えると何になるか?」
クリーチャーを生贄に捧げてトークンを出すだけの置物に、戦場に置かれたときに1点ドレインする実質無限蘇生能力付きのクリーチャーを加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンは笛を吹いてスキャバーズ・クリーチャー・トークンを増やすことに夢中だった。ハーマイオニーは勝つことがカードゲームの全てだと思っているので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「パックを剥いただけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。核になるパーツが禁止されないトップメタデッキを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはトップメタデッキが一体何なのか見当もつかない。公式大会に参加したプロプレイヤーの半数に同じデッキを使わせるほどのパワーカードを刷っておいて、それをすぐ禁止する運営を相手に何を組めばいいというのだろう。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にメタ環境をチェックしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいた時、ダドリーのデッキを勝手に崩しはした。スネイプは今のスタンダードに競技性があるとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
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