ハーメルン
魔王の苦悩アカデミア
014:見えない葉隠の。

「私は葉隠透! よろしくね破魔矢くん!」

 皆に観られながら戦うの嫌だなー、恥ずいなー、と思いながらも自分の番が来たので会場となる建物に俺は入った。
 すると話しかけられた。
 振り返り目を向けると、グローブとブーツだけが浮いていた。

「ごめんね、さっき話してるの聴こえちゃって名前知ってるんだー。 ……て、どうしたの破魔矢くん?」

 俺の脳はあらゆる想定を高速で処理し始めていた。
 葉隠、と名乗った女子の個性はおそらく『透明化』だろう。
 グローブとブーツのみ見えていることからそれは明らかである。
 ではなぜグローブとブーツのみ見えるのか?
 もしコスチュームにそういった特性を付与できるのであれば、グローブとブーツのみをその対象から外す理由は一体なんだ。

 いや───まさか、そんな。

 ありえる……のか?
 これは、いやしかしそれしか考えられない。
 つまりそこから導き出される最も可能性の高い結論、それは───

「……今、貴様はそれ以外の服を着ていないのか?」

「うんそうだよ! 私も本気だからね!」


 ────クハァッ!!


 俺はあまりの事実に理解が追いつかず、見えない血を吐きながら膝をついた。

「だ、大丈夫破魔矢くん!? 体調悪いの!?」

「我は魔王よ。心配などいらん、少し目眩がしただけだ」

「そ、そう? 無理しちゃダメだよ」

 ……なんてことだ。
 認識が……認識が甘かった。
 ここまでレベルが高いとはな雄英高校ヒーロー科!!
 ダメだ集中しよう。
 これみんなに観られてんだぞ?
 葉隠と組むことは一部の危険性を内包している。
 それは女子全体に嫌われるという、死と同義の極めて恐ろしい可能性だ。
 葉隠に妙な視線でも向けてみろ。
 次の日にはクラス全体、いや、学校全体の女子から後ろ指をさされることは自明の理。

 今こそこれまで培った己の全能力を総動員し、“意識しない”ことに努めなければならない。
 ここが最大の勝負所だ!
 まずは話を……逸らす!

「案ずるな葉隠、その身なりでは不安もあるだろうが───貴様が傷つくことは万に一つもない。魔王である我が守ってやるのだからな」

 俺はただ真摯に、その真紅の瞳で葉隠を見つめながらそう呟いた。
 実際には見えていないが。
 
「…………っ! う、うん。アリガト……破魔矢くん」

 保身でしかないその言葉。
 だが、葉隠にはそうは聴こえない。
 本人さえ自覚のない『魔王』の力の一端、『魔王のオーラ』が遺憾無く発揮されてしまい、激しく心を掌握されてしまったからである。
 顔が熱くなるのを感じ、手をバタバタとさせる葉隠。

 そして、その様子をモニター越しに見ていた耳郎響香は───

「…………」

「耳郎ちゃん、怖いわ」

 不機嫌な様子を隠そうともせず、耳たぶのプラグを高速でグルグルとさせていた。
 2人の心を良い意味でも悪い意味でも揺れ動かした魔央だが、当然そのことには気づいていない。

「さて、我らに歯向かう愚か者共は轟と障子といったか。確か個性は───」

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