朋友遠訪─Where do the butterfly go?
「なあ、W。ちょっといいか?」
「?ああ」
……モロー?
お前、なんで……
……ああ、そうか。
──おれは今、夢を見てる。
夢を夢だとわかるとはおかしな話だが、これは間違いなく夢だ。
……なぜなら、これは過ぎ去った過去の話なのだから。
おれはモローと一緒に暗い路地を歩いていた。何やらのっぴきならない用がある。表情からそれを察したおれは、モローが話始めるのを待った。
沈黙が続く。両側に壁が迫ったロケーションも相まってか、どうにも重苦しい雰囲気だ。
それにしても一体どこに向かっているのだろう。モローが進むがままに任せ、おれはただついていく。
しばらく歩いたところで、ようやく足が止まった。
そこは行き止まりで、目の前には空を覆い隠すように伸びる壁ばかりが広がっている場所だった。
ここに至り、おれはようやく口を開く。
「なあ、モロー。ここに一体何が……」
おれの言葉は遮られた。
……有無を言わせず突き付けられた銃によって。
「……」
「……」
ここまで目的も聞かずモローについてきたわけだが、ようやくその目的とやらがわかった。
……どうやらこれはそういうことらしい。
「……モロー」
「……なあ、W。お前はとんだ間抜け野郎だよ」
近づいてきたモローが心臓に銃を押し当ててくる。
おれはその時初めてモローの顔を見た。
路地の暗がりでもわかる、ニヤッという笑み。それを見て、おれはすべてを理解した。
「じゃあな。これまで楽しかったぜ」
だから、おれは。
トン、と軽く地を蹴り後ろに跳躍する。
瞬間、アーツが起動して突き付けられた拳銃が発射された銃弾とモローの指ごとぐちゃぐちゃの鉄屑に成り下がった。
うめき声を上げるモロー。
地面に着地した反動でためを作ると、そのまま真っ直ぐに飛びかかる。
あいつのアーツであるシールドはデカくて硬いが、唯一の弱点は身体に密着しては展開できないことだ。
左手で脚のホルスターから拳銃を引き抜く。飛び掛かった勢いそのままに足を刈ると、マウントを取って額に銃を突きつけた。
いつもと変わらぬ鈍色の銃身がいやに冷たく感じられる。
「……モロー」
「……まいったな」
じっとその眼を見つめる。
いつものように、軽妙な笑みを浮かべるモローの眼を。
「……どこだ?」
銃を突きつけながら答えるように促す。
モローは苦笑しながら胸を指差して言った。
「ここだ。……外すなよ?しっかり狙え、急所をな」
「……」
そうして、おれは……
「ソフィーを……頼んだぞ」
引き金を引いた。
火薬の爆ぜる音。薬莢が落ちる乾いた音。寒々しい音が、いつまでも反響していた。
引き金を引く。
引き金を引く。
引き金を引く。
引き金を引く。
引き金を引く。
引き金を引く。
引き金を……
もう弾は出ない。マガジン一つ撃ち切った。
視線を下に向け、転がったモノに目をやる。
服に空いた穴から、じんわりと血が滲みだしていた。
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