二者択一─And the narratives converge
『あー、こちらウィリアム。そっちは準備できたか?』
『ええ、準備できたわよ。……ヘドリーの首を狙う馬鹿ってのも結構いるのね』
『そういうことらしいな。……俺はイネスに連絡する。あとは任せたぞ、ウィル、ザラ』
『うっかり爆弾使って隊長殿まで吹き飛ばすなよ、ザラ』
『うっさいわね。流石にもうそんなヘマはしないわよ。あんたもせいぜい囮役をしっかりすることね、ウィリー』
いつものように軽口を飛ばし合うと、おれは物陰に隠れている奴を手にしたボウガンでぶち抜いた。
まさかこちらが気付いていないとでも思っていたのだろうか、驚愕といった表情をした死体が地面に倒れこみ────それが合図だったかのように敵が一斉に襲い掛かってきた。
「死ねヘドリー!」
「金貨10枚の首を寄こしやがれ!」
「5枚の新入りもいるぞ!」
わーわーと人の首の値段を言いながら突っ込んでくる手合いたち。人数で圧倒的に上回っているからか、皆一様に興奮した口ぶりだ。余計なことを口走っていないでさっさと殺りにくればいいものを、頭数を揃えたところで質はお粗末なものだ。首謀者の考えの浅さが透けて見える。隻眼になったとはいえ、相手はあのヘドリー。それに加えてウィリアムとザラ──もといWとΩもいるというのに。
おれは迫りくる銃弾と矢をアーツで食い殺すと、腰の刀を抜き放った。抜刀の勢いで手斧を片手に迫ってきた敵の頭を斜めに切り落とす。スイカでもスライスするかのように地面に赤い中身をまき散らすそれを捨て置き、おれは前に突き進んだ。一振り、二振り。振り下ろすたびに血しぶきが舞い、誰かの倒れる音がする。これまでは奥の手として持っていたのだが、刀というのもなかなかにいい得物だ。弾薬の心配をしなくていいし、狙いも大雑把でいい。これは、もしかすると近接高速戦闘ではアーツより使い勝手がいいかもしれない。最近はこの戦い方もそれなりに板についてきたものだ。
ふとヘドリーのほうへ目をやると、通信機片手の彼に飛びかかる二人が額に穴を空け、銃声と共に倒れこむところだった。どうやらΩの狙撃も絶好調のようだ。元々得意だった隠蔽と相まって、身を隠したあいつはなかなか見つけられない。おれも目に見える範囲の飛び道具はアーツをピンポイントで展開して消しているが、背後から飛んでこないのは潜んでいた連中を彼女が全員片づけたからだろう。
おれは目線を元に戻した。すぐそばに迫った首を落とし、ボウガンで腹に穴を穿つ。生暖かい返り血を浴びながら繰り返される単調な殺し。アーツに頼らない戦いを体に染み込ませるにはちょうどいい相手だ。
何せ、今のおれはWではなくウィリアムなのだ。派手にアーツを使って肉塊を生成すると正体がばれてしまうかもしれない……といっても、もうあの傭兵団は壊滅状態なのだが。
結局、隊長の行動は正しかったという事だ。中立の立場にしてはあまりにも大きすぎたかの傭兵団は、軍事委員会の軍隊によって一夜にして壊滅させられた。つい最近のことだ。団長はどこかへ逃げ延びたようだが、もう組織として終わりなのは明らかだろう。バラバラに離散した生き残りの傭兵たちとおれたちに、テレシスはもはや何の脅威も感じていないようだった。
これまではおれもΩも組織の力を恐れて正体を隠して振舞っていたが、これを機にそろそろ偽装は終わりにしてもいいかもしれない。白地に赤く染め上げられた髪をいじりながら、そんなことを考える。もう敵は数えるほどしか残っていなかった。やはりどれだけの数を揃えたとしても所詮は烏合の衆らしい。
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