作戦開始─The road to the Ark
「ウィルは行くのか」
「ああ」
「てめえがくたばるのは勝手だが……これから飯が寂しくなるなあ」
「はっ、そりゃうれしいな。舌が肥えた分、苦しさもひとしおだろ」
「このクソ野郎が。……ウィル、簡単にはくたばんなよ。また戦場で会おうぜ」
「おう。そんときゃ敵でも味方でも、とびっきりのおもてなしをしてやるさ」
……先ほどから何度もこのような会話を繰り返している。
やはり、今回の仕事を受けた奴はそう多くはない。この拠点には未だ多くの傭兵たちが残っているのに対して、出ていこうとしているのは限られた少数だ。おれたちはその少数派に属していた。
イネスの口から出てきた”バベル”という言葉。正直言って眉唾物だし、そのようなよくわからないものを当てにして命を賭けるのはまっぴらごめんだ。
今回おれとΩがこの仕事を受けることを決めたのはそんな謎の組織のためではなく、もっと現実的な要請からだ。今回の輸送部隊はレム・ビリトンからくるとヘドリーは言っていた。しかもかなりの規模でだ。となればカズデル外と関わりを持つ、相当にでかい組織がバックについていると言っていいだろう。それがバベルとやらなのかどうかは知らないが、これはチャンスだ。仲介人が殺されたことを考えると、これから仕事はますます得にくくなってくるだろう。このままここに留まっていても、じり貧に陥る可能性が高い。ならば、でかい顧客を捕まえられるかもしれない機会を逃す手はない。
ヘドリーも馬鹿ではない。何の勝算もなくこの仕事を引き受けるわけではないだろう。おれたちは、危険を冒す価値がこの仕事にはあると判断した。
さて、今おれがこうして別れの言葉を交わしているのも、そろそろ出発の時が近づいてきたからだ。
ヘドリーとイネスを隊長として再編されたおれたちの部隊は、順次拠点を出て合流地点へ向かう予定になっている。この拠点については居残り組が使い続けるそうなので撤収の必要はない。
おれはもう準備も終わっていつでも出れるのだが、まだΩがやってこない。荷物をまとめるのに手間取っているのだろうか?おかげでもうおれたち以外はほとんど出てしまっただろう。
まあ、集合ポイントも伝えられているのでそこまで急ぐこともない。気長に待つか。そう思ってコーヒーでも淹れようと立ち上がった、その時だった。
「敵襲だ!敵しゅ……」
誰が言ったのかはわからない。ただ、その声はがやがやと賑やかだった辺りにいやに響き渡り、静けさが場を支配する。直後、ここは怒号飛び交う戦場と化した。
「囲まれてるぞ!」
「クソっ、哨兵は何してたんだ!」
「薄いところを探せ!脱出するぞ!」
「おいおい……!」
敵は一体何者だ?なぜここが分かった?何が目的だ?なぜこのタイミングで仕掛けてきた?
疑問はいくらでも頭に浮かんでくるが、今すべきことは一つ。
生き残ること。それだけだ。
待機していた小隊のメンバーとともに戦場からの離脱を図る。おれは道を塞ごうとする敵を纏めてアーツでひき肉に変えると、ヘドリーに連絡を入れた。
『ウィルか。状況は既に聞いている』
『ならいい。そっちはどうだ?』
『……こちらに敵は来ていない。拠点が狙われたようだな』
『……なるほどな。で、計画に変更は?』
『いや、その必要はないだろう。ウィルには逃げ遅れた部隊の掩護を任せる。指定の地点で集合だ』
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