第三章 二節「赤い眼の少女Ⅱ」
「――なるほど。つまりお前はくだらないお使い程度のことでディルファンスを名乗り、そのギネス級の軽はずみ発言のせいでマヌケにも敵対勢力に襲われていたというわけか。やはり顔に違わぬ馬鹿さ加減だ。ある意味賞賛に値するな」
そこまで言って少女はなみなみとグラスに注がれたオレンジジュースをストローで力強く吸い上げた。あまりにも容赦のないその言葉にマコは少女の向かいの椅子でうなだれる。
「そんなにはっきりと言わなくてもいいのに……。私だって悪気があったわけじゃないもん」
「当たり前だ。悪気があってそんなことをやったんだとしたらお前は本当に救いようがない。島流しにでもしてもらえ」
そう言ってオレンジジュースの隣のパフェの頂点にある特大アイスクリームをスプーンでつついてそれを頬張った。そのアイスの冷たさが脳天に響いたのか目を強く閉じて、鋭い刺激に耐えるように目じりに涙を溜めている。それだけ見ていれば歳相応の少女なのに勿体ないとマコは思った。
「ん? なんだニヤニヤとして人の顔を見て。訴えるぞ」
マコの視線に気づいた少女がアイスの冷たさに目を潤ませたまま睨みつけた。それにマコは視線を逸らす。
「いや、別に。……でもちょっと食べすぎじゃない?」
マコが少女の前にずらりと並んだスイーツの皿を指差して言うと、少女は何を言っているのだという目でマコを見た。
「私はお前の命の恩人だぞ。この程度で文句を言うとは、みみっちい性分だな。言っておくがこれでもまだ足りないくらいだ。お前の愚かしさをお前自身に分からせるには――。おっと。店員さーん、ピザ追加してくださーい」
少女が店員を見つけて先ほどまでの口調が嘘のような無邪気な笑顔を浮かべながら歳相応の少女の声で言った。それを見てマコが吐きそうな顔をする。
「何? 今の声。って、いうかまだ食べる気?」
「当然だ。お前は恩人に出し惜しみをするのか。まったく礼儀のない奴だな。どこをどう間違えればこういう馬鹿になるのだか」
そう言ってパフェのコーンを手で取って半分頬張った。すると腕の中のカブトがもぞもぞと動き、小さい足を伸ばす。
「ん? 何だカブト、これがほしいのか」
コーンを手元で揺らしながら少女が言う。するとカブトが頷くように、頭を沈ませた。少女はそんなカブトにコーンを手渡す。すると甲殻の裏面から、小さな足が伸びコーンをつかんだ。そのまま甲殻の裏側でむしゃむしゃと咀嚼する音がする。マコはそれを感心したような顔で見ながら、カブトを指差した。
「この子って古代のポケモンのカブトよね。どうしてそんな珍しいポケモンを持っているの? あなた何者?」
マコの質問に少女はオレンジジュースをストローで吸いながら気だるそうに答える。
「ちょっとしたお使いだ。それ以上は言いたくない。というか馬鹿に言っても多分理解できないだろう」
そう言ってパフェのスポンジ部分をつつき始めた。パフェとの戦いは早くも佳境に入っているようだ。すでに最下層のスポンジ部は半分ほど平らげられている。
そして瞬きしている間にもそれはどんどん減っていく。マコはそれを驚愕の眼差しで見ながら、
「バカバカって……。それよりもお使いってどういう事なの? というか古代のポケモンを持つお使いって何?」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/11
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク