ハーメルン
ポケットモンスターHEXA
第二章 一節「無垢」

 荒涼たる大地が広がっていた。

 地面には草木一本生えず一面が灰色に近い。風も吹かず、弱い太陽光がジジジと地面を焼いている。そこには生物がいない。いや、正確には生物が生きていくための巣となる場所が無い。土は固く、平面で、掘ることもかなわないからだ。雲ひとつないこの場所は常に太陽光にさらされているために乾ききっていた。水を含まない地面はひび割れ、時々土が凝り固まった小さな欠片が風で大地を転がっていく。

 そんな大地の中心を今、一筋の光が駆けた。

 それは真っ直ぐに地平へと向けて疾走する。その速度はジェット推進でもついているかのように速い。それが通過すると風を生じ地面から砂煙が起こる。

 そして地平にはその光と対峙する影が立っていた。光は速すぎて姿がつかめないが、その影は光に向かって仁王立ちしているためにはっきりと分かった。ただし仁王立ちと言ってもそれほど足が長くないその影はむしろ座っているようにも見える。

 光が近づく。その影は紫色の身体を真っ直ぐにしてその背筋をピンと張った。そうすると肌色のお腹がやけに目立つ。横広の顔にある口は常に笑っているように緩んでおり、大きな耳が横に生えている。その影で最も特徴的な手のような形をした尻尾がふらふらと揺れている。

 もちろんこれは人間ではない。ポケモンだ。

 そのポケモンは目の前まで近づいてきた光を見据えるようにかっと眼を見開いた。それと同時に声がそのポケモンに指示を出した。

「エイパム、メガトンパンチ!」

 声に反応し、そのポケモン――エイパムの尻尾がふらりと一度大きく揺れ、手のような尻尾が固く握られる。それは拳のように見えた。その時エイパムが一瞬身構えたかと思うと、その短い足から想像できないほどの鮮やかさで突然宙返りをした。そして、尻尾を前に突き出す。その尻尾の拳は力が集中しているかのように光り輝く。そして真正面から向かってきた光と、それは激しくぶつかった。

 それで一瞬景色が見えなくなるほどの光が放たれる。強力な力と力がぶつかったために余剰エネルギーが崩壊するかのような現象をかもす。そしてその光はこの大地の両端に対峙する二人の人間の視界を埋め尽くした。

 その片方は少女だ。緑色に近い色の髪を頭の両端で結んでいる。大きめの眼が今は光で細められている。発育過剰な胸を張り、戦闘を見据える目は鷹のように鋭い。腰につけたモンスターボールが、彼女がポケモントレーナーであることを証明していた。

 もう片方は男だった。色素が全て消え去ったかのような白い髪をオールバックにし、その身を黒いスーツに包んでいた。鋭い眼光が光の中心部をにらむ。

 光が晴れていく。するとその中心部に二つの影が浮かび上がる。ひとつは攻撃をしたままの姿勢でいるエイパム。なんとエイパムは相手に尻尾でパンチしながら、その尻尾の先のみを支えとして半分宙に浮いたような状態となっていた。そしてもうひとつは先ほど光に包まれていたポケモンだ。光をまとうほどに加速して相手に突進した技は「すてみタックル」という技だった。そしてそれを使ったポケモンの姿が今あらわになる。

 それは白い体毛のポケモンだった。四速歩行で顔が青く、頭にはブーメランのような形の角がある。そのポケモンの赤い眼が自分の額を殴りつけたまま静止しているエイパムをにらんでいた。白髪の男がそのポケモンに指示を出す。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/9

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析