第X話
昏睡の中に沈んだ街を見下ろすのは、天を衝く摩天楼だった。
そこから一羽の雛鳥が飛び立つ。その実、それは雛鳥ではない。灰色の無骨な構造部の両端に九十度可変が可能なローターを有しており、腹部を膨張させた不恰好な輸送機だった。
上昇しようとした矢先、輸送機の翼から黒煙が上がる。たちまち爆風が表皮を吹き飛ばし、雛鳥は空を知る前に空中で四散した。
爆発の余韻が耳の中に居残る。彼はぐっと奥歯を噛んだ。
――間に合わなかったというのか。
白いワイシャツ姿の彼は屋上へと続く階段を駆け上がり、状況を確かめようと首を巡らせる瞬間、襲撃を受けた。樹木のようなポケモンが長い両腕を垂らして間断のない拳を打ち込んでくる。彼は自身の手持ちポケモンと共にそれを応戦していた。彼の手持ちは口角の両端に牙を有したポケモンだ。緑色の装甲のような表皮に、赤まだら色が混じった灰色の皮膚は戦士の様相を呈している。
「オーロット! シャドーパンチ!」
オーロットと呼ばれた相手のポケモンが影の色に染まった腕を突き出してくる。彼は叫んで応戦する。
「オノンド! ドラゴンクロー!」
オノンドと呼ばれたポケモンの両牙に青い光が纏いついたかと思うと扇状に広がった。それが一直線に集束し、オーロットを押し出す。
「ダブルチョップ!」
鋭い一撃が二重に突き刺さり、オーロット共々、相手トレーナーは逃げ出した。彼がそれを追って駆け出す。
出たのは広い空間だった。ヘリポートらしき場所があり、屋上からはヤマブキシティの全景が窺える。
カン、と階段を踏み締める音が耳朶を打った。彼が目を向けると青いコートを身に纏った少年がクレーンの陰から階段を伝って降りてきていた。白いマフラーが風に棚引いている。
「よくもまぁ、ここまで来たものだ。ぬけぬけとよくも」
憎悪の滲んだ声だった。その眼には敵意以外の感情がない。機械と形容したほうがまだマシだった。
「輸送機を墜としたのは、お前か?」
先ほどの輸送機爆発と目の前の少年は無関係とは思えなかった。少年は鼻を鳴らす。
「だったらどうする?」
彼は息を呑んだがすぐに持ち直した。会話をしたところで平行線なのは目に見えている。何よりも、お喋りをするためにここまで来たわけではない。
「お前はオーキド・ユキナリだ」
名前を呼ばれ彼――ユキナリは睨む目を向けた。
「お前はカンザキ・ヤナギだ」
同じように名を呼ぶ。
この瞬間、二人は決して相容れない敵として、お互いを認識した。
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