十一話 はじまり
「今日は一段と顔色が悪いようだけど、大丈夫?」
「‥‥‥うん、大丈夫だよ」
姉と共に歩く朝の通学路。いつもと変わらない筈の通学路も、今日は何処か気怠さを感じた。
大丈夫と伝えたが、千聖姉さんは疑うように視線をこちらへ向けている。
恐らく、千聖姉さんにはバレているだろう。僕が嘘をついてるいる事に。
「何かあったら私に言いなさい。何もないのであれば良いけど、明らかに今日の一楓は少し変よ」
「そ、そうかな‥‥‥。でも、分かった。何かあったら伝えるよ」
何とか笑みを浮かべ、千聖姉さんに心配されないよう表情を作る。千聖姉さんからしたら見え見えの嘘なのだろうが、少しでも不安がられないよう僕は取り繕った。
けっして風邪を引いて具合が悪いとかではない。風邪とは違う気が滅入る身体の怠さがあった。
その理由。心当たりなんて一つしかない。
今日見たあの夢。訝しげな怪しさと奇妙な既視感が僕の心に残る。
不気味な情景と女性が僕に突っ掛かりを感じさせた。
記憶に覚えのあるあの夢。今まで気にした事もないし、特に印象に残った訳でもない。
なのに、それは夢に現れた。
たかが夢。そう思えば幾分か気の持ちようは楽になる。
そうだ。あれはたまたま見た夢。そんなに気にする事なんてないのだ。
僕は心の突っ掛かりを頭の隅に追いやり、身体の気怠さを誤魔化すように歩を早めた。
○
「‥‥‥‥今日はこれで終わり。各自復習をしっかりするように」
終わりのチャイムにより、長い長い今日の授業も終了。
朝から今日は身体が怠かったが、それも今はなかった。やはり気の持ちようだったのだろう。
あれは夢。ただそれにしか過ぎない。
僕は深く気に留めすぎていたんだ。
そんな考えに落ち着き、これから事務所で撮影がある事を僕は思い出す。
時刻は午後4時過ぎ。急いで行かなければ帰りが遅くなってしまう。
僕は鞄を掴み、早々と教室から出て事務所へと向かった。
○
「はぁっ‥‥‥はあっ‥‥‥時間がまずいな‥‥‥‥」
学校から事務所に向かうとすると、歩いて約40分はかかる。今のところ半分近くは走っただろうか。
僕はスマホに目を通す。今の時刻は4時30分。事務所には出来れば5時になる前に着きたい。
僕は体力がないが故に、あまり良いペースで走れないし、持久力も続かない。
今のペースで行けば何とか5時前には着く筈だが、如何せん息が切れる。
僕は何とか呼吸を整え、片手に鞄を握り締めて走り出す。
そうして走り出した矢先に、視界に映る曲がり角。この時、僕の頭の中に注意なんて物はなかった。
それが仇となり、曲がった先には人の姿。急にブレーキなんてかけれる筈もなく、僕はその人物と衝突した。
「っ‥‥‥‥‥‥‥‥」
「いたっ‥‥‥‥‥‥」
衝突したのは僕と違った制服を見に纏う女学生。一瞬同じ学校の生徒かと思ったが、制服の柄が違うことに気づいてその考えは消え失せる。
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