彼の悪夢
ロンの兄さんの一人であり、監督生のパーシーに指示された通り、男子と女子で分かれて辿り着いた塔のてっぺんの寝室で、ベッドを見るなり同室に成った男子5人は荷ほどきもせず、さっさと着替えてベッドに潜り込んだ。
皆一日の内に沢山の事がありすぎて、すっかり疲れきっていた。
勿論ハリーも同じで、数語隣のベッドのロンと話した気がしたがその内容も覚えていない程あっと言う間に眠りに落ちていた。
見た事もないようなごちそうにはしゃいで、少し食べ過ぎてしまったせいか、あるいは後ろめたさのせいか嫌な夢を見た。
クィレルの珍妙なターバンが、ハリーの頭に陣取り絶え間なく話かけてくる。
「すぐスリザリンに移らなくてはならない。それが運命なのだから」
ターバンの訴えに、明確に言葉に出して否と言えなかった。
組み分け儀式の前に再び顔を合わせたマルフォイのイヤな態度と、ロンから聞いたスリザリンに対する印象と、なによりもヴォルデモートもそこの出身だと聞いてしまい、『スリザリンは嫌だ』と念じずには居られなかった。
それがなんだか古い友人を見捨ててしまったような、裏切ってしまったふうに感じて、ちくちくと胸の奥が痛んでいた。
だからきっと、こんな夢を見て居るのだ。
後ろめたさから、きっぱりと否定できずに、それでも肯定する事も出来ず、鬱陶しいターバンを放り捨てようと藻掻く。
だがその努力の成果はなく、脱ぐことが出来ないどころか、どんどん重くなりぎりぎりと頭が歪むのではないかと思う程に締め付けて来る。
ターバンを脱ぐことも出来ずに、滑稽にじたばたとするハリーを、あの感じの悪いマルフォイが嘲笑っている。とんでもない馬鹿者を示す様に指さして。
流石夢と言った所で、当然にマルフォイの輪郭が歪んで伸びて、スネイプに変わる。
今日初めて顔と名前を知った教師が、無様に足掻く様子を嘲笑う。
冷笑の響く中で、くすりと静かな女性の声が聞こえた。その瞬間に、聞いた事無い筈のスネイプの声は無くなる。
ぎゅうぎゅうと、頭蓋骨を砕いて脳を絞りそうな力で締め付けていたターバンも消える。
何となく静かな声の女性が助けてくれたような気がして、救い主を探す為に視線を彷徨わせた。小馬鹿にしたように笑っていたマルフォイが居た場所に誰かが居る。
顔は殆ど見えない。細かい文様の不思議な仮面のついた帽子を被っていて、にっこり弧を描いた口しか見えない。それでも丈の長いスカートと、胸元のやたらと可愛らしい水色のリボンに女性だと判断する。
「……アリアナ?」
そんな訳はない。だって彼女はアリアナとは違い、背の高い大人だ。
笑みを浮かべた口元と、どことなく雰囲気が似ている気がして呼んでしまったのだ。でもやっぱり、違ったらしく目の前の誰かは笑みを浮かべたままに首を傾げてみせる。
「助けて頂いたみたいで…ありがとうございます」
お礼の言葉に反応したのか分からないが、もう一度静かに笑い、首を振る。それ以上何も言うわないで、小さく上品に手を振って踵を返して去っていく。
その手に、先ほどハリーを苦しめていたターバンの本当の持ち主、クィレルを引き摺って居た。
意識が無いのか、眠って居るのかそんな区別はつかないが、重力に逆らわずにぐたりと脱力しきっている。
人形みたいに一切動かない成人男性を、音も無くぞんざいに片腕で引きずりながら、誰かは夢の果てへに消えて行った。
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