蛇足2
揺蕩うように。微睡の中にいた。
――…る、…ぉる……
何か、聞こえる。……人の声?もしかして、僕を呼んでいるのだろうか。
―――…さ…る、
(……なんだよ、今いい所なんだ。邪魔するなよ…)
声は段々と大きくなっていく。
―――………ぁ、と……る
(だから…うるさいってば……)
まとわりつく蠅を払うように、手を振り上げた時だった。
――――――悟
聞き慣れた声が、耳朶を打った。
「――――……え…?」
驚いて反射的に目を開く。数歩といかない距離に、そいつは立っていた。
「やぁっと目ぇ開けたか、寝坊助…っちゅうのんはちょいちゃうか。ここはお前の心の中みたいなもんやし、ちゃんと目ぇ覚めたって訳でもあらへんしな」
仕方がないと言いたげな表情でそいつは肩を竦める。
「え…何…?それ、どういうこと…?だって、さっきまで、僕たち……???」
薄暗い空間だ。僕達がいる場所だけが、蝋燭の火で照らされたようにほんのりと明るい。
「夢でも見とったのか?…見とったんやろうなぁ」
呆れたような声。そいつの発言に納得がいかなくて、僕は反論した。
「ゆ、め……夢…?そんなはずない、だって、こんなにもはっきりと覚えてる。あれは夢なんかじゃない。確かに起こったことで――」
「そないな記憶、存在しいひん」
ばっさりと。情けも容赦も情緒もなく。同じ色彩の瞳が冷えた眼差しで僕を射抜いた。
「なんっ、なんで、そんなこと言うんだよ」
「……だって、なぁ?」
言ってから、ハッとする。なんてことを聞いてしまったんだ、と。答えを聞きたくなくてそいつの口を塞ぐために手を伸ばす。
「俺はお前を庇うて死んださかい」
また、ばっさりと。僕の手が届く前に、そいつは吐き捨てた。
「死…――――」
視界を覆う目隠しをぐしゃりと握りしめ、きつく目を閉じる。信じられない。信じない。信じたくない。――不意に、肩を抱かれた。
「目隠しは取って、ちゃんと目ぇ見開け。死人に囚われるなんて、悟らしゅうない……唯我独尊を体現するのがお前なんやさかい。俺のこと、忘れろ、とは言わへん、時々思い出すのんは許容したる」
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