第1話
魔法。
それは伝説や御伽噺の産物ではなく、理論立てられた技術である。
21世紀初頭、超能力研究に端を発した魔法技術の開発は、数十年の歳月を経て再現可能な技術として体系化された。
この魔法を扱う力は遺伝的素養に左右される傾向が強く、優秀な魔法資質を持つ家系は百家と呼ばれ、魔法師界隈に多大な影響力を持っている。
僕の生家、森崎家も、そんな百家の一つに数えられる家系だ。
とはいえ、森崎の家は百家の中でも支流で、特定分野を除けば魔法力は平凡なもの。
特異な魔法や強力な魔法力を持つ『数字付き』、それも国内トップクラスを占める『十師族』なんかとは比べるべくもないほどに平凡な家柄だ。
森崎が百家の一端に数えられているのは『クイック・ドロウ』――文字通り『早撃ち』を意味するCAD操作技術があるからだろう。
『CAD』――『術式補助演算機』と呼ばれる、魔法の使用を補助するデバイスが開発されて以降、魔法の発動はそれまでよりも遥かに高速化された。
以前なら長々と呪文を唱えて発動していた魔法を、ボタンを押す、引き金を引くといった単純な工程で再現できるようになった画期的な発明品だ。
この発明により魔法の発動に必要な時間は極僅かにまで短縮され、従来の威力や多様性に重きを置いたスタイルを凌駕する場面が、実戦の場において特に増えていった。
森崎家はそんな速度重視が進む実戦環境下にあって、ただでさえ高速発動可能なCADをより早く発動させる技術に長けた家系だ。
威力や規模は二の次。魔法自体の難度も気にしない。
とにかく早く発動し、相手が魔法を使う前に無力化する。
そうした運用思想の下、CADの操作技術、技法の研究をし続けてきたのである。
僕はそんな森崎本家の一人息子として生まれた。
先天的な特異魔法はなし。魔法的素養も歴代の森崎当主とほぼ同じ。
規模も干渉力も平凡の域を出ず、速度だけは百家本流に手が届くかというレベル。
正直に言って、原作で名前の出た誰よりも地味で才能に劣っているだろう。
唯一無二の魔法もなく、圧倒的な魔法力もなく、血に由来する特異性もなく、実家が長大な歴史を持つ陰陽や剣術の大家というわけでもない。
確かに『森崎駿』は第一高校の一科生で、実技の成績は学年トップクラスで、森崎一門の魔法師として高校一年生ながら2年もの実戦経験を有していた。
けど、それがどうしたというのだ。
原作を知っているからこそわかる。第一高校に在学する生徒の中に、森崎駿よりも優秀な人間がどれほど多くいることか。
魔法技能の実技においても、魔法理論の試験においても、はたまた実戦においてでさえ、森崎駿よりも優れた人間は数多く存在していた。
よくもまあ、あれだけ図に乗れたものである。
一科生というだけで調子に乗って、根拠のないプライドを掲げて、上から目線で見下して、独りよがりな善意を押し付けて、自分勝手に劣等感を感じて、意固地になって謝罪の一つもできない。
そんなだからモブ崎なんて呼ばれたり、噛ませ犬扱いされたりするんだ。
奇しくも森崎駿になったからには、そんな末路は絶対迎えてなるものか。
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