第2話
「……どれだけ優れているか、か。じゃあ僕から教えよう」
言って、集団の前に躍り出る。
「森崎くん!」
「やってやれ、森崎!」
好き勝手なことを言っていた2人が、またも無責任な物言いをしてくる。
内心で辟易しながらも表情には出さない。あれでも一応クラスメイトなのだ。性根から腐っているわけでもなし。円満な学校生活のために子供の面倒くらいは見よう。
全員の視線を受けながら、レオとエリカの前で立ち止まった。
二人の顔に好戦的な笑みが浮かんだところで、僕は回れ右をして振り返る。
視線の先にはA組のクラスメイト。
援軍の登場で綻ばせた表情のまま、目元は動揺で開かれている。
同様に、背後からは戸惑うような気配と視線を感じた。
困惑に揺れる中へ、一石を投じる。
「――少なくとも、常識を弁えているという点で、彼らの方が優れていると僕は思うよ」
唖然とした顔が並んでいた。誰もがそんなことを言われるとは思っておらず、だからこそ思いがけない方向から来た、一見するとズレた発言に気勢が削がれている。
焦ったように男子の一人が口を開いた。
「い、今はそんなどうでもいいことじゃなく、ブルームとして優れてるってことを」
「ブルームとして、ね。それは具体的に何を指しているんだ。魔法実技の成績か? それとも実戦能力か? 前者であればさっきも言われた通り、入学したばかりの僕らと彼らの間にそう差はない。そして後者であれば――」
言って、僕はエリカに目を向けた。
「司波さんを除くA組の誰よりも、そこの彼女の方が強いと思うけどね」
エリカは一瞬驚いたように目を見張るが、すぐに挑戦的な笑みを浮かべる。
「あら、どうしてそう思うの? ただ大口叩くだけの落ちこぼれかもしれないわよ」
あくまでか弱い二科生を演じるかのように、エリカは自らを抱く。表情や声音とは裏腹に、目だけは笑っていなかった。
冗談だろと、呟いた上で述べていく。
「姿勢が良くて重心がブレない。歩くときの繰り出しも特徴的だ。これは歩法を学んだ影響だろうね。思うに、君は何かしらの武術に精通しているんじゃないか」
エリカの表情が変わる。それまでの挑戦的な、よく言えば友好的な眼差しが鋭くなり、刺すような冷たさが載せられた。殺気というほど濃密ではないが、これ以上踏み込めば斬られるような険のある雰囲気だった。
「……へぇ。よくわかったわね。確かにあたしは剣術に通じているけど、どうしてわかったのかしら」
「実家がボディガードの仕事をやっている。お陰で多少は、ね」
嘘だ。真実はただ僕が原作を知っているからってだけで、そうでなければ彼女の些細な癖なんてすぐに見抜けるはずがない。
だから彼女が自分から剣術経験者だと明かしてくれたのはありがたい。お陰でこれ以上、原作知識を分析の結果だとこじつけずに済む。あんまりやり過ぎて達也に目を付けられるのはごめんだ。
「僕はA組の森崎駿。差し支えなければ、名前を伺いたい」
姿勢を正し、腰を折って一礼する。
こちらから先に名乗り、礼を尽くすことで彼女の譲歩を引き出す公算だ。エリカは気分屋だが、剣術家だけあって礼儀作法には真摯なはず。
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