第二章 五節「弱点」
「どれ、まずは地図を確認しようぜ」
テクワがポケッチを差し出す。ユウキは口を挟んだ。
「地図は全員、同じものだって聞いたけど」
「そんなの確認してみないと分からねぇじゃん。もしかしたら座標が違うかも知れないし」
テクワの言葉にユウキもポケッチを突き出した。三人がそれぞれお互いのポケッチを見やったが、どれも表示されている地図は同じだった。座標も同じで、方位磁石が狂っているのも同じである。
「やっぱ、そう簡単な話じゃないか」
テクワは後頭部を掻いた。マキシは前髪を気にしている。ユウキはポケッチの電源を確認しながら、「それでも収穫がなかったわけじゃない」と言った。
「というと?」
「黒服や試験官は、嘘は言っていないことが証明された」
少なくとも安心できる材料にはなる。与えられた情報に嘘が混じっていないという事実は、進む上で原動力になるはずだった。だが、テクワは気落ちを隠しきれない様子で肩を落とした。
「でも、結局、地道な方法しかねぇってことだもんな」
「テクワさんが言ったんでしょう。足跡をつけていくしかないって」
「ん、でもな。やっぱ、少しくらい楽したいじゃん」
正直な反応だった。ユウキは少しだけ笑えた。
「とりあえず、進みましょう。そうすれば、何かヒントがあるかもしれない」
「だな」とテクワも同意の声を出して、ケースを担ぎ直した。ユウキはテクワの腰元を盗み見る。モンスターボールを吊るすホルスターの類はない。だとすれば、ケースの中に入っていると考えるのが順当だろう。だが、トレーナーが所持できるポケモンの数は二体までだ。ケースにわざわざ仕舞っておく必要性はない。
考えを巡らせていると、マキシがじっと睨んでいる事に気づいた。ユウキが声をかける。
「何か?」
「別に」
冷たい声音だった。ここに来て初めてマキシの声を聞いたが、声は高いのに、どこか醒めている感じだった。
「とりあえず、最初は囚人についていこうぜ。その後、ルートを決めていけばいい」
テクワの提案にはユウキも同意だった。一番に方角を分かっているのは囚人達だ。ただし、彼らよりも先に行かなければ先着十人には入れない。途中からは独自ルートを取る必要があった。
三人は目についた囚人の後ろを気づかれないように距離を取ってついていった。囚人の足首には鎖がつけられている。じゃら、と歩くたびに鎖が地面に擦れて音を発した。固まって歩きながら、ポケッチに視線を落としていると、テクワが、「なぁ」と話しかけてきた。ユウキが顔を上げる。
「何か用でも?」
「堅苦しいのはなしにしようぜ。そう歳も変わらないんだからよ。俺の事はテクワでいいし、こいつの事はマキシでいい」
テクワがマキシの頭を掴む。マキシは特に嫌がるわけでもなく、ポケッチの地図を見ながら淡々と歩いている。
「ええ、でも僕の癖みたいなものですから。それに歳が変わらないといっても、僕よりかは年上でしょう」
「多分な。お前は何歳?」
「十五です」
その言葉にテクワは、ほうと声を上げた。
「若いね。っても、俺も十六になったばかりだから、そう変わらないけどな」
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