ハーメルン
ポケットモンスターHEXA BRAVE
第一章 七節「チェンジザワールド」

 淡く光を発する机の端を、ユウキは見つめていた。天井に光源はない。どうして机から光が発しているのだろう、とユウキが思っていると、目の前の影が両手を顔の前で組んで話し始めた。

「ユウキ君、と言ったね。これは決して尋問ではない。単なる確認だ。だから君には黙秘権がある」

 リリィの言っていた事と違うではないか、と内心に毒づいてから、ユウキは目の前の影へと視線を向けた。空気を震わせる低い声からして男なのだろうが、逆行のようになっていてシルエットも判別できない。いっその事、何もないほうがマシだと思える姿だった。

「僕に確認したい事とは」

 ユウキが両手を上げようとする。鎖の鳴る音が耳に届いた。手首に圧迫感がある。両手には手錠がはめられていた。

「確認、と言っても構えなくていい。起こった事実を整理するだけだ」

 影が手を翳す。ユウキが身構えたのが伝わったのだろう。影の横にはもう一つ、細長い影が立っていた。何かを書きとめているようだ。影には現実感がないくせに、持っている板のようなものには妙なリアリティがあった。

「君は、リヴァイヴ団と面識があったのかな」

「いいえ」

「では、どうしてリヴァイヴ団と思しき男がスクールに押し入った?」

「さぁ?」

 ユウキの返答に、細長い影が歩み出ようとした。それを座っている影が制する。どうやら目の前の影のほうが細長い影よりも立場が上のようだ。

「リヴァイヴ団、だったんですか。あの男は」

「ああ、そうだ。君に対して何やら話していたと目撃証言にはあったが」

「大した話はしていません。向こうが勝手に因縁をつけてきただけで」

「そうか。では、君は被害者かな」

「どちらかといえば、そうなるかと思います」

 ユウキは机の下で貧乏揺すりを始めた。こんな質問に意味があるのか。何者かもこちらからは分からないというのに。これがウィルのやり方か、とユウキは歯噛みした。毎週のように家に訪れるウィルの構成員の顔が脳裏に浮かび、ユウキは苦々しい思いを味わった。

「確かに。あの男のドクロッグが君に攻撃した瞬間を見ていた者もいる。今のところ、目撃証言と君の証言は合致している」

 今のところ、という事はこれから変わっていくという事なのだろうか。だとすれば変わるのは自分が、証言のほうか。少なくともウィルが変わる事はありえないな、と感じた。

「しかしだね、ユウキ君。リヴァイヴ団の一員が君に接触した事を、我々は重く見ている。どうして白昼堂々と君を襲ったのか。君を暗殺する方法ぐらいいくらでも思いつきそうだがね」

 暗にいつでも殺せると言われているような気がして、怖気が走る。それを悟らせないような口調で返す。

「オトシマエ、とあの人は言っていましたが」

「オトシマエ?」と影がそのまま聞き返す。

「寝込みを襲ったりするのは流儀に反する、という事ではないでしょうか」

 推測の言葉に影は哄笑を上げた。ユウキには、その笑い声は耳障りな雑音に聞こえた。影は息を整えながら、「いや、失礼」と手を上げる。

「流儀、というのが彼らにあるとは思えなくてね。あるとするならば仁義、だとかだろうが、まぁ、それは彼ら流の言い回しだ。我々の常識と同じではないだろう」

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