黎明
アカツキワイナリー、モンドの南東、清泉町から南へ下った先に見える、広い土地を使った広大なブドウ畑を保有している大豪邸だ。
モンドの酒造業を担っており、その影響力は計り知れないと聞く。
少なくとも、ここが焼け落ちたり、破産したりなどしてしまった“暁”には、モンドの国としての収入には大きな赤字が出てしまうことだろう。
とはいえ、今日はここに寄る予定はない。
すぐ隣にここに住んでいるお坊ちゃんが居るが、今回の目的はここから北上した地点にある、風龍廃墟だ。
しかし、流石はワイナリーと言ったところか、隠しきれていないアルコールの匂いと豊かなブドウの香りが鼻孔をくすぐる。
今度はリンゴ酒だけではなく、ワインも飲んでみるか。
「ワイナリーが気になるかい?」
匂いを嗅いでいたのがばれたのか、気配で気付いたのか、もしくは余程ワイナリーに自信を持っているのか、先導していたディルックがこちらに目配せすらせずに話しかけてきた。
「あぁ、正直な。オーナー様のお気に入りの酒なんかはあるのか?」
「あいにくと、僕は酒が飲めないんだ。だけどそうだな……蒲公英酒は昔から人気のある酒だ。もし迷ったのなら、それを飲むといい。まぁ、今回はここには寄らないが」
「わかってるよ、寄り道をするつもりはない」
ワイナリーを抜けた先、モンドと璃月の間にある大河の傍を通り、いまや崩れ果てた、苔むした石造りの門を抜け渓谷を通る。
この渓谷を抜ければその先に風龍廃墟が広がっているのだが、道中問題が発生した。
生息域を広げた丘々人が監視塔を作っているところに出くわしたのだ。
冒険者や、その協会の調査員は定期的に丘々人等の縄張りを監視し、彼らが人里近くに生息域を広げないよう牽制する役割も持っている。
本来、依頼を受けた冒険者、もしくはその調査員がこれらの始末を付けなければならないのだが、それを待っている時間もなければ、俺達はこの先に用がある。
協会には悪いが、勝手に処理をさせてもらうとしよう。
深呼吸ののち意識を切り替え、懐から片手剣を構えかけた時、動きを止める。
何故、俺は片手剣を使おうとしている?
リスクマネジメントの考え方で行くなら、このまま剣で突貫するより弓矢で牽制した後、接近戦で剣を使う方が合理的じゃないか。
……無駄に危険に身を投じる必要はない。
「丘々人か……どうする?」
ディルックが両手剣の柄を握りながら聞いてくる。
……少し、思考が楽観的になりつつあったか。
危なかった。
「まずは弓矢で牽制する、その後は、アンタの実力を見たい……いいか?」
「そうだな、神の目を見せただけじゃ、僕の実力の証明にはならないとはおもっていたさ、いいだろう」
「ありがとう」
背負っていた弓の弦に矢をつがえ、目一杯に引き絞る。
標的は複数体いる。
棍棒持ちの丘々人が2体と、完成済みの監視塔の上に見張りが1体、それと丘々人暴徒が1体の合計4体だ。
常人だった頃の俺は、棍棒持ちの丘々人でさえ不意打ち以外で相手取ることはしなかった。
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